
張本智和 PHOTO:World Table Tennis
競馬の世界には「無事これ名馬」という言葉がある。
どんなに速く走る競走馬でも、ケガでレースを欠場しては本末転倒。故障なく無事に走り続けることもまた、名馬の条件であり、それがいかに難しいかを表す格言だ。
厳しい勝負の世界で戦うアスリートにも通じるものがある。張本智和(トヨタ自動車)の活躍を見るたびに、この言葉を思い浮かべずにはいられない。
とりわけ、今シーズンの大会出場数と成績は特筆に値する。
連戦が続く中、9日間に及んだ9月のアジア競技大会では男子団体金メダルと男子ダブルス銀メダルを獲得。
さらに、わずか8日後に開幕したアジア選手権(10月19〜25日/タシケント)でも男子シングルスを制し、前回アスタナ大会に次ぐ金メダルの快挙を成し遂げた。
日本男子のアジア選手権シングルス連覇は長谷川信彦氏が1972、1974年大会を制して以来、52年ぶりの歴史的快挙。
思い返してみても、張本が怪我や体調不良で試合を欠場した記憶は、ほとんどない。
強いて挙げるなら、2017年にイタリアのリーヴァ・デル・ガルタで開催された世界ジュニア選手権を右肩痛で欠場したことと、世界卓球2019ハンガリー(ブダペスト)で薬指の腱鞘炎のため混合ダブルスへの出場を回避したことくらいだ。
世界ジュニア選手権当時は14歳、世界卓球当時は16歳。まだ若く、成長期にあったことを考えれば無理もない。
その張本も現在23歳。身長176cm。試合映像よりも、実際に近くで接すると体格の良さが際立ち、屈強な印象を受ける。
彼の身体の強さは、今シーズンの大会出場数を見ても明らかだ。
国際ツアーのWTTに加え、全日本選手権、ワールドカップマカオ、世界卓球2026ロンドン、アジア競技大会、アジア選手権など、国内外の主要大会に数多く出場。実に15大会を戦ってきた。
さらに、今月27日にはWTTチャンピオンズ モンペリエが開幕。翌週の11月3日にはWTTチャンピオンズ フランクフルトが始まり、29日からはITTF混合団体ワールドカップ(中国・成都)も控えている。
12月のWTTファイナルズ香港までを含めると、2026シーズンの出場大会数は計19大会にのぼる。そこにTリーグの試合も加わるのだから、驚くほかない。
張本の身体の強さは、もしかすると親譲りなのかもしれない。そう思わせるエピソードがある。
今年8月、WTTチャンピオンズ横浜の会場で、父・宇さんと立ち話をする機会があった。
そこで、妹・美和のコーチである宇さんに、ひっきりなしの海外遠征で疲れないのか、長時間の飛行機移動で腰が痛くなったりしないのかと尋ねてみると、「飛行機の移動は、まったく大丈夫。ただ、行く場所によっては食べ物が合わなくて困ることはあります」と驚きの返事が返ってきた。
ちなみに宇さんは現在56歳。あっぱれである。
思えば美和も、18歳にして身長165cm。手足が長く、骨格がしっかりしていて、恵まれた体格の持ち主だ。
兄の智和同様、国内外を転戦する過密スケジュールの中で、コンディション調整のためにTリーグの試合出場を見送ることはあっても、他の主要大会を欠場したためしはない。
もちろん、これだけの試合数をこなしていれば疲労が蓄積し、身体のどこかに何かしらの痛みを抱えているはずだ。智和もこれまで不調を押して臨んだ試合は数知れない。
近年、大会数の多さを疑問視する声は大きい。そうした中で戦い続ける張本兄妹のタフさに敬意を抱かずにはいられない。
「無事これ名馬」。この言葉が示すのは、厳しい勝負の世界で戦い続けることの難しさと、その価値だ。
2人には、これらもケガなく持ち前の強さを発揮してほしい。そう願うばかりである。
文=高樹ミナ
