アルピニスト野口健、人生を懸けた挑戦の裏にあった愛娘との絆とは

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2020.7.8

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そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない

ピッケルを置いた登山家がいかにわびしいかを男は身を持って知った。

七大陸の最高峰を極めた不屈のアルピニスト・野口健。大自然に挑んだ日々が今はただ懐かしい。

離れることで近づく親子の距離もある。

去年9月の登山もそうだった。娘を置いて父一人での挑戦。

長年の課題、8千メートル越えの高峰マナスルに、野口は挑んだ。登山口となるサマ村は標高3500メートルに位置している。

これが3度目の挑戦。過去二度は豪雪に阻まれ連続で登頂を逃した。

村人は野口を恩人と敬う。ヒマラヤの清掃登山や植林を通じて、村に様々な恩恵をもたらしてきたからだ。

ベースキャンプはサマ村から1日がかりで登った標高4800メートル地点。ここで旧知のシェルパと合流した。

ベースキャンプは、各国の登山隊がひしめく大テント村になっていた。その向こうには目指すマナスルがそびえる。

"自分の人生をもう一度見つめ直す"

1956年に日本隊が初登頂し、「日本山」とも呼ばれる8000メートル峰。今回は、日本隊の初登頂時とほぼ同じルートで、4つのキャンプを経由して頂上に挑む。

今回の登山、自分の人生をもう一度見つめ直すことが目的のひとつだ。

いたるところに口を開ける死の淵。自分が生きていることをここでは教えられる。

登山開始から4日目、標高6300メートルのキャンプ2に到着。

日本にいる妻から天気予報を教えてもらう。山岳専門の気象予報士から得た情報を毎日教えてもらうのだ。

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愛娘が中学1年生のころに始まった親子登山

そして野口の身を案じる女性がもう1人。一人娘の絵子さんだ。エコとはギリシャ神話の森の妖精。

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父との本格的な親子登山は中学1年生のとき始まる。

標高2646メートル、八ヶ岳の名峰、天狗岳への挑戦を見事に成功させた。

ひとつの頂が、次の頂に誘う。それが山だ。去年夏には父と二人の親子登山でキリマンジャロに挑んだ。

アフリカ大陸最高峰、5895メートルへの挑戦。標高5000メートルからは猛吹雪に襲われた。寒さも空気の薄さも初めて経験するものだった。

だがついに頂へと立つことができた。父は何も教えていない。山が娘に乗り越える素晴らしさを教えてくれたのだ。

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登頂か断念か 判断が迫られる中、野口は娘から手渡された一通の手紙を読んだ...

それから2ヶ月。娘に背中を押されたマナスル挑戦。6500メートル地点では酸素の濃さは平地の半分近くにまで下がった。

怖いのは滑落だった。重い足を引っ張り上げ必死で雪面を踏みしめる。

体の順応が遅れていた。46歳、もう無理がきかない年齢なのか。

6日目の朝、天候は悪くない。目指す山頂も見える。

シェルパのリーダーから頂上アタックへの提案があった。

登頂はできても、問題は帰りだ。天候が悪化していく中、無事戻れるのか。

自分の判断に隊員の命が懸かる。

山に登る意味とは?

生きる意味とは?

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野口は娘から手渡された一通の手紙を読む。

「お父さんへ。また一緒に山に登るためにも無事に帰ってきて下さい。愛娘、絵子。」

三度目となったマナスル挑戦。野口はアタックを断念した。

再挑戦を誓ってマナスルを下山した野口だったが、今も登山再開の見通しは立たない。

だが登山家は知っている。

吹き荒れる嵐はいつか必ず収まるものだと。