解説・町田樹 × 実況・板垣アナが語る「プリンスアイスワールド2021」の魅力【町⽥樹×田中刑事「継承プロジェクト」インタビュー 第4回】

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2021.5.29

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演技や選手の深部に迫るコメントが人気を博し、今や町田樹のライフワークの1つとなったアイスショー解説。今回も、名コンビとなった実況・板垣龍佑アナウンサーと共に「プリンスアイスワールド2021」の魅力を余すところなく伝える。収録を終えたばかりの2人に話を聞いた。


――「プリンスアイスワールド2021-2022『Brand New Story Ⅱ』~Moving On !~」の見どころを教えてください。

町田「今回は、その名の通り'19年の『Brand New Story Ⅰ』の続編という位置付けになっています。プリンスアイスワールドチームの演技では、新しいフォーメーションが多数取り入れられていました。新たな群舞の魅せ方を探求し続けている姿勢が表れていて、素晴らしかったですね」


――特に印象に残ったプリンスアイスワールドチームの演目は何でしょうか?

町田:1つ挙げるとすれば、第一部の『Bad Guy』は今回のショーの中でもハイライトといえる演目だと思います。女性メンバーだけでの力強い群舞というのは、今村ねずみさんが手掛けた『ROAD OF THE ICE』('18年)の『The Show Must Go On』を彷彿とさせました。

しかも、その力強さ、クールさに加えて、今回の『Bad Guy』はよりダンサブルでしたね。演技と照明の連携も相まって、見応えのある演目になっていたと思います


――プリンスアイスワールドチームのダンスは、さらにレベルアップしているということですね。

町田:『Brand New Story』というテーマに突入した'19年以降、"リズムに乗って踊る"という陸上のダンスが多く取り入れられ、メンバーのスキルも年々高まっていると思います。

あえて私の希望を言わせていただくのであれば、今はダンスとフィギュアスケートのパートが切り分けられている印象ですので、ダンスとフィギュアスケートをうまく融合させ、1つにするという次元に至ると、『プリンスアイスワールド』というアイスショーが、さらに独自の立ち位置を確立していけるのではないかと考えます。

板垣:『Bad Guy』の先頭で踊っている佐々木優衣さんは、『プリンスアイスワールド』で踊るまでダンスを習った経験がなかったそうなんです。それを聞いて、町田さんも驚かれていましたね。

町田:そうですね。基本的にバレエダンサーはバレエしかしませんし、ヒップホップダンサーはヒップホップしかしませんが、フィギュアスケートというのは、いわば"ジャンルの坩堝(るつぼ)"と言いますか、多彩なジャンルを取り込むことができます。

そのため、フィギュアスケーターはさまざまなダンスの知識や技術が、自然と身に着いていく傾向があります。プリンスアイスワールドチームもこれまで数多くの振付家やアーティストとの方々とのコラボレーションを経験してきましたので、メンバーそれぞれの技術や知識がより豊かになっていると感じました。


――板垣アナが印象に残った演目は何ですか?

板垣:クライマックスの『おお、運命の女神よ』から『威風堂々』にかけての群舞です。これは、プリンスアイスワールドチームの真骨頂と言える演目だと思いますし、2年ぶりに見られて感慨もひとしおでした。もはや実況・解説が不要なのではないかと思うほど美しかったです。

町田:(収録では)実際、あまり話しませんでしたね(笑)

板垣:メンバー全員が東京に住んでいるわけではないので、コロナ禍によって全員が集まれる機会がなかなかなかったと思うんです。さらに、メンバーも変化しました。そういった中で、どれほどの内容の練習を重ね、あのシンクロナイズドスケーティングを作り上げたのだろうと考えると、ただただ感服いたします。


――エアリアルや整氷車を使った演出など、前回よりもスケールアップしたショーになりました。

町田:ザンボニー(整氷車)が出てきた時は、さすがに驚きましたね。『プリンスアイスワールド』は、KOSÉ新横浜スケートセンターに眠っているリソースを余すところなく使おうとしている!』って(笑)。

板垣:『そうくるのか』と(笑)。KOSÉ新横浜スケートセンターでインストラクターを務めている中島将貴さんが運転されているのですが、日頃のスキルを存分に活かしていますね。

町田:ザンボニーは、私たちが立つ舞台を支えてくれている究極の裏方です。それが、今回の『プリンスアイスワールド』では"主役"に躍り出たということですね。そしてエアリアルですが、フィギュアスケートを見ていて通常は、視点が上にいくことはありません。それがエアリアルを用いることで、観客の視点を高低にも誘導していました。

板垣:視界のいたるところに出演者がいて、演技をしているというのは、新鮮でした。

町田:ただエアリアルはすでに世界中のアイスショーで取り入れられていますので、今後、これをどう使っていくかというのが腕の見せどころですね。エアリアルとフィギュアスケートと融合させて、『プリンスアイスワールド』ならではの唯一無二の演出になることを期待しています。


――ゲストスケーターの演技で印象に残ったものはありますか?

町田:皆さん、本当に素晴らしかったですが、強いて1つ挙げるとすれば、樋口新葉選手の『ライオンキング』です。

"太陽を昇らせていく"という演技冒頭の象徴的な振り付けが、朝日のような赤い照明と合わさり、その一瞬だけでオーディエンスの視線をロックオンするシーンでした。'21-'22シーズンは4年に一度の冬季オリンピックシーズンですが、勝負の年にふさわしい、樋口選手にとても合った力強く重厚なプログラムだと思います。

板垣:演技が始まった瞬間に、ステージが変わったように感じました。苦悶の表情から優しい笑顔まで表情が豊かで、私には彼女のスケート人生を投影しているようにも感じられました。'21-'22シーズンのフリーということですが、ここにジャンプが入り、完璧な演技をした時は、想像もつかない感動を呼ぶのではないかと思います。

町田:彼女は競技者としてももちろん一流ですが、ショースケーターとしての才能も素晴らしいです。作品を大事にして滑っている印象を受けますので、彼女の『ライオンキング』が完成される日を心から楽しみにしています。


――宇野昌磨選手は、'21-'22シーズンのフリー『ボレロ』を演じます。『ボレロ』といえば、町田さんも'18年に『ボレロ:起源と魔力』を発表しましたね。

町田:宇野選手の『ボレロ』は、私と違いオーケストラの演奏のものではなく、編曲された音楽を使用しています。オーケストラの『ボレロ』はリズムが一定で、後半に向かって右肩上がりにずっと上がり続けていく音楽ですので、私の持論ですが、スピンやジャンプ、ステップなどのエレメンツを数多く入れる競技会のプログラムには向かないと考えています。

そのようなこともあり、宇野選手が『ボレロ』を選曲したと知った時は少し心配したのですが、編曲されたバージョンはリズムの主張が抑えられ、メロディーのほうが前に立ち上がってきているものでした。

宇野選手の重厚かつなめらかなスケートによく合っていると思います。非常に難度の高い演技構成になっていますので、これからシーズンを通じて、どこまで完成させることができるかが注目ポイントですね。


――板垣アナウンサーは印象に残ったゲストスケーターの演技はありますか?

板垣:鍵山優真選手は、すごかったですね! 4回転ジャンプのコンビネーションにトリプルアクセル...。どこまでも跳べそうでした。そして、アイスショーで渾身のガッツポーズはあまり見たことがありません(笑)。

町田:本当に素晴らしいジャンプの才能です。彼が跳ぶ瞬間だけ重力が弱まっているのではないかと感じるほどの軽やかさですね。

板垣:演目は'20-'21シーズンのショート『Vocussion』ですが、本人も今回のアイスショーは『世界選手権2021』以上の出来だったと言っていました。独特のリズムを捉える感性もジャンプの技術も本当に素晴らしいです。

――町⽥さんと制作者集団Atelier t.e.r.m(アトリエターム)が新たに手掛ける「継承プロジェクト」も始動しましたね。今回はその第1弾として、町田さんの『Je te veux(ジュ・トゥ・ヴ)』を田中刑事選手が滑りました。以前、板垣アナは「町田さんの好きなプログラム」に『Je te veux』を挙げていましたが、いかがでしたか?

板垣:『継承プロジェクト』の話を聞いた時は、期待でゾクゾクしました。その後、練習を見学させていただきましたが、町田さんが久しぶりに氷の上に立っている姿、町田さんと田中選手があの衣装のコートを着て滑っている姿を見て本当に感動しました。

そして、実際にショーで演技を観た時は、これまでに感じたことのない気持ちになりました。私は町田さんの『Je te veux』を観ていますので懐かしさがあり、そこに田中選手の演技ならではの新鮮な感動も同時に去来する。これは、まったく新しい体験でした。

町田:田中選手の『Je te veux』を観た方から感想をたくさんいただきましたが、"町田さんが演じたパリの男よりも、田中選手が演じたパリの男の方が悲劇的だ"という感想が多かったのです。私の場合には、"女性と別れてから時間が経っている状況で、女性との思い出を回想している"という印象があったようです。

それに対して田中選手の演技からは"まだ女性への思いを断ち切れず、悲しみにくれている"という印象が感じられたと。同じプログラムだとしても、演者が違えば観る人は違った感情を持つ、これはまさに私が『継承プロジェクト』を実現させる意義だと思っていたことです。

コピー製品のようにただ真似しても意味がありません。私も、そして、おそらく田中選手も、『Je te veux』の登場人物のようにいくつかの恋を経験しているはずです。

それぞれのバックボーンが違えば、作品の印象も、観客の解釈も変わってくる。つまり、私が出せなかった『Je te veux』の新たな魅力を田中選手が開拓してくれたと言えます。さらに、"田中選手の魅せ方が変わった"という感想もありました。

つまり、『Je te veux』という作品が"表現者・田中刑事"を育む一助になったのではないでしょうか。スケーターが作品を育て、作品がスケーターを育てる、これがこのプロジェクトの意義であり、それを実現できたことをとても嬉しく思います。

板垣:田中選手の演技は哀愁があって、悲しみを強く感じました。

町田:『なぜ、田中選手の方が悲劇性を増すのか』ということを分析したのですが、私が思うに、私のスケートの方がシャープでリズミカル、音の一歩先をいくようなスケートのため、観客に軽快さを感じさせたのかなと。

対して田中選手はスケートが音に寄り添っていて、動きがたおやかなんです。その違いが、見る人の解釈が変わった主な要因なのではないかと考えています。

板垣:町田さんの『Je te veux』を知らなくても、田中さんの『Je te veux』を観て楽しめる。その上で、町田さんの『Je te veux』も観てみたいと思う。そうやって、世界が広がっていくことが素晴らしいと思いました。

町田:プログラムや作品を通じて、フィギュアスケートの歴史が編まれていくということですね。

板垣:いろいろなプログラムをこのように観てみたいと思いました。

町田:その感想はとても嬉しいですね。私は、フィギュアスケート界にこの『継承プロジェクト』の考えを広く普及させたいと考えています。また、今回の放送はディレクターの計らいで私の『Je te veux』とほぼ同じカット割りで構成されていますので、2つを見比べてみるのも面白いかもしれません。


――最後に、今回の解説・実況の見どころを教えてください。

町田:今回は、とにかくこのような大変な状況(コロナ渦)の中、無事にアイスショーが開催され、こうしてオンエアできるという喜びを心に刻み、解説・実況をさせていただきました。一人でも多くの皆さんに、鑑賞していただけますと嬉しいです。

板垣:今回も町田さんのエッジの効いたコメントがたくさんありますから、是非そのあたりに注目してください(笑)。

そして、プリンスアイスワールドチーム、ゲストスケーター、スタッフの皆さんは、コロナ禍の中『本当にショーを開催していいのだろうか』と葛藤があり、その中でさまざまな対策をし、無事にショーを開催することができました。

彼らの喜び、想いが込められたアイスショーの魅力を視聴者の皆様にお伝えしたいと思い、実況させていただきました。ぜひ、ご覧になってください。



【プリンスアイスワールド2021】
BSテレ東(BS⑦ch)/BSテレ東4K(4K⑦ch)※全国無料放送
5月30日(日)午後2:00~4:00

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1978年に誕生した日本最古のアイスショー「プリンスアイスワールド」が2年ぶりに帰ってきました。唯一無二ともいえる総勢25名の群舞・シンクロナイズドスケーティングは圧巻。今回は氷を離れて宙を舞うもちろん国内トップスケーターからレジェンドスケーターも出演。個性あふれる演技も必見です。町田樹さんの珠玉の解説と共に、フィギュアスケートの魅力を存分にお楽しみください。

さらに今回は、フィギュア界初!「継承プロジェクト」フィギュアスケートで演じられてきた傑作と言われる作品が選手の引退と共に消えてしまうのではなく、優れた作品を次世代に残す革新的な取り組み。その第1弾として継承されるのは町田樹が2014年に演じた不朽の名作「Je te veux」。田中刑事が演じる「Je te veux」は果たして...。

【出演スケーター】
<ゲストスケーター>
荒川静香、本田武史、宇野昌磨、樋口新葉、田中刑事、本田真凜、本田望結、友野一希、鍵山優真、三浦佳生

<プリンスアイスワールドチーム>
松永幸貴恵、佐々木優衣、松本玲佳、五戸桃代、浅見琴葉、河野有香、坪田佳子、中西樹希、西村桂、小川真理恵、上地悠理花、榎並志世子、神林陽南乃、白神瑠菜、白神伶菜、三澤日向子、小林宏一、小沼祐太、松村成、中島将貴、吉野晃平、小平渓介、本田宏樹、中野耀司、唐川常人

【出演者】
解説:町田樹
実況:板垣龍佑(テレビ東京アナウンサー)