ダイタクヘリオス「かつて絶大な人気を博した個性派快速馬」【もうひとつの引退馬伝説2】

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2025.11.22

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第8回マイルチャンピオンシップ 岸滋彦騎手騎乗のダイタクヘリオスが優勝(c)SANKEI

現役時代とは正反対のロマンスグレーの老紳士

現役時代にマイルチャンピオンシップ連覇を含む重賞7勝を挙げた名馬・ダイタクヘリオスは、いつ走るかわからないムラ馬としてファンをやきもきさせた「迷馬」でもあった。

同馬は引退後、北海道日高と青森県八戸で種牡馬生活を送ったが、種牡馬を引退し、功労馬として余生を送り始めた2008年に22歳でこの世を去った。

その最後の繋養先である山内牧場の山内卓さんに聞いた存命時の様子を、著名な競走馬の引退後を追った『もうひとつの引退馬伝説2〜関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社、2025年10月9日発売)から一部抜粋・編集してお届けする。

「まるで人間のようだ」。

サラブレッドの魅力を語る際にそんな表現がよく使われる。極めて優秀な成績を残し、賢い馬にも当てはまるが、それは個性派と呼ばれる馬たちにこそふさわしい。

自己主張が強く、走りたくない時は拒否するどころか人を振り落としさえする。そんな挙動に共感する部分が多い。

誰だっていつも全力を出せるわけではない。個性あふれるキャラクターへの共鳴が「まるで人間のようだ」という表現に結びつく。

1990年代初めに活躍したダイタクヘリオスは希代の個性派として知られる。折り合いが難しく、どうしても行きたがってしまうことを前進気勢と表現するが、ダイタクヘリオスは前進気勢の塊だった。

口を割って走る姿から「笑う馬」と表現されたこともある。そんな激しい気性からよく大波乱の立役者になることも多かった。

ツインターボが大逃げを打った1991年有馬記念では好位から積極的に立ち回り、ダイユウサクの追い込みを誘発した。

翌年の天皇賞・秋はトウカイテイオーを巻き込みハイペースを演出し、こちらもレッツゴーターキンの追い込みが決まった。メジロパーマーが逃げ切った有馬記念では激しく先陣を競い、グランプリを大いに盛り上げた。

当時のマンガでも超個性派として面白おかしく描かれることが多かったが、その競走成績は非常に優秀。

マイルチャンピオンシップ連覇は歴代でもニホンピロウイナー、タイキシャトル、デュランダル、ダイワメジャー、グランアレグリアと時代を彩った名マイラーばかり。

生涯獲得賞金6億円超えはシンボリルドルフ、オグリキャップ、メジロマックイーンに次ぐ史上4頭目。

ダイタクヘリオスは歴史に名を刻む名馬と肩を並べるだけの成績を残した。

出走したGⅠは1200~2500メートルと幅広く、それゆえに中長距離戦ではハイペースの片棒を担ぐことがあっただけのこと。豊かなスピードの持ち主だったとの証左でもある。

そして、その遺伝子は最低人気でスプリンターズSを勝ったダイタクヤマトへつながる。

ブラックホーク、アグネスワールドらを振り切ったレースは鮮烈だった。そのダイタクヤマトの種牡馬入りはダイタクヘリオスの晩年に影響を及ぼした。当時の事情を山内牧場取締役の山内卓さんはそう語った。

「後継馬のダイタクヤマトが北海道で種牡馬入りしたので、ヘリオスを青森で預かってくれないかという話が私の父のところに来ました」

血統好きの山内さんは受け入れるかどうか相談を受けた。父馬からスピードを、母馬からスタミナを受け継ぐという考えから、ダイタクヘリオスのスピードはいつか走る馬を出すのではないかという思いが巡った。

その父ビゼンニシキが青森産馬であること、そしてダイタクヘリオスのネームバリューも背中を押した。

2003年、ダイタクヘリオスは種牡馬として青森へやってきた。現役時代の激しい姿の記憶からどんな馬なのかと山内さんも身構えるところがあった。

だが、その記憶は瞬く間に崩れていった。ダイタクヘリオスは静かで大人しい馬だったのだ。年を重ねていたこともあるが、余計なことは何もせず、人の手を煩わせるようなことは一切なかった。

朝、厩舎から放牧地へ出す際も喜んで暴れるような仕草はなく、淡々と厩舎から放牧地へ向かう。厩舎へ戻す際も同じ。

時に賢い馬は世話をする人を区別して態度を変えるなど人を下に見るような面もあるが、ダイタクヘリオスには当てはまらない。

人に慣れた賢く聞き分けがいい馬だった。また、牧場見学に訪れた知らない人が放牧地に近づいても、ゆっくり近寄り、鼻先を出して挨拶すると、その場で静かに草を食んでいたという。

当時の山内牧場にはレギュラーメンバーも繋養されており、隣の放牧地にいた。走り回るなど元気いっぱいなレギュラーメンバーが賑やかに過ごしていても、ダイタクヘリオスが気にするそぶりはなかった。

放牧地に入ると、ゆっくり1周して、ゴロンと寝転がると、残りの時間はのんびり草を食んで過ごす。

ダイタクヘリオスはそんな穏やかな時間を過ごしていた。山内さんは当時の振る舞いから「ロマンスグレーの老紳士」と評する。

あの現役時代の口を割る姿が逆に不思議に思えるほどその実像が正反対だったことは意外だった。

■ダイタクヘリオス プロフィール
生没年月日:1987年4月10日~2008年12月12日
性別:牡馬
毛色:黒鹿毛
父:ビゼンニシキ
母:ネヴァーイチバン(母父:ネヴァービート)
調教師:梅田康雄
馬主:中村雅一
戦績:35戦10勝
主な勝ち鞍:マイルCS(2回)、読売マイラーズC(2回)、毎日王冠、高松宮杯
生産牧場:清水牧場(平取)
最後の繋養先:山内牧場(青森県・八戸市)

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もうひとつの引退馬伝説2 ~関係者が語るあの馬たちのその後

有名競走馬の現役引退後の余生を追い、競馬ファンを中心に大反響を呼んだ『もうひとつの引退馬伝説~関係者が語るあの馬たちのその後』の第2弾!

今回も種牡馬や繁殖牝馬になった馬の他、乗馬、馬術競技、伝統神事、リードホースとして活躍している馬、功労馬としてゆったりと余生を送っている馬、生を全うした馬など、取り上げる馬は総勢28頭。

それぞれの関係者に直撃取材し、知られざる第2・第3の馬生を紹介していきます。


編:マイクロマガジン引退馬取材班
発売日:2025年10月9日
価格:1,980円(本体1,800円+税10%)
購入:https://www.amazon.co.jp/dp/4867168505/


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