史上初の親子無敗三冠制覇・コントレイル 父ディープの最高傑作 最強馬の称号へ
2020.11.23
無敗三冠馬 誕生の軌跡 ~2つの伝説 舞台裏に迫る~【2020年11月14日OA】
三冠馬に潜む、人知れぬドラマに迫る
150年を超える歴史を誇る日本競馬において、史上初めて無敗でのクラシック三冠馬が牡馬と牝馬で達成された2020年10月。空前絶後の偉業を達成したデアリングタクト(牝3 栗東 杉山晴紀厩舎 父エピファネイア)とコントレイル(牡3 栗東 矢作芳人厩舎 父ディープインパクト)には数多くの関係者が携わってきたことでこの伝説が生まれたが......2頭の躍進を支えたホースマンたちのことは競馬ファンにもほとんど知られていないだろう。
2頭の無敗の三冠馬が生まれる舞台裏にあるドラマに迫った。
無敗で三冠を制したコントレイルと福永祐一騎手 写真:日刊スポーツ/アフロ
デアリングタクトが史上初の牝馬無敗三冠の偉業を達成した1週間後、今度は牡馬二冠馬、コントレイルが最後の1冠、菊花賞へと駒を進めることになった。1941年のセントライトに始まり、牡馬の三冠馬はこれまでに7頭いるが、無敗での達成は皇帝と称されたシンボリルドルフとコントレイルの父であるディープインパクトの2頭だけ。
それだけにコントレイルは自身の栄冠だけでなく、親子で無敗の三冠制覇、そして牡馬牝馬揃っての無敗の三冠達成という2つの史上初に挑むことに。そのプレッシャーは尋常なものではない。実際、コントレイルの第2の故郷とも言える育成牧場、大山ヒルズの齋藤慎ゼネラルマネージャーは「(プレッシャーで)心休まる日がない」と口にするほど。
2013年のダービーを制したキズナをはじめ、数多くのG1ホースを手掛けてきた齋藤氏ですら、このプレッシャーは桁違いの様子だったが、それは調教師の矢作芳人氏にとっても同じだった。
「プレッシャーを楽しもうと思ったけど、(菊花賞の)直前になるとやっぱりキツかった」
昨年の年度代表馬リスグラシューをはじめ、国内外の大レースを何勝もしてきた名伯楽でさえも、無敗での三冠達成には重いプレッシャーを感じていたという。しかもコントレイルの母ロードクロサイトはかつて自身が海外のセリ市で見い出し、自ら調教をつけた馬。親子二代で管理した馬ということでその思い入れも並々ならぬものがあったのは間違いない。
そして迎えた菊花賞でコントレイルは単勝オッズ1.1倍という圧倒的な1番人気に支持される。勝って当たり前という雰囲気の中で迎えたレースだったが、ライバル馬から終始マークされるという厳しい展開に。最後の直線に入ってからもコントレイルの外からアリストテレスが猛追してくるという状況に、スタンドから観戦していた矢作調教師にも熱がこもった。
矢作調教師の声援が届いたのか、コントレイルはアリストテレスをクビ差凌いで見事に勝利。史上3頭目となる無敗の三冠制覇を達成した。これまで誰も経験したことがないであろうプレッシャーから解放された瞬間、矢作調教師は一緒に観戦していたスタンドの関係者と握手を交わし一礼。三冠トレーナーになった喜びにあふれているようだった。
「歴史に名を残す馬になってくれたと思いますし、その馬を管理できることが調教師としてこれ以上ない誇りです」
そう語る矢作調教師とレースを終えて栗東トレーニングセンターへ戻ってきたコントレイルは勝利の余韻に浸ることなく、次の戦いに目を向けていた。
無敗の三冠馬が挑む次の戦いは...
無敗で三冠制覇を達成したコントレイル、デアリングタクトの2頭が次走にどのレースを選ぶか注目が集まっていたが......2頭の答えは11月29日のジャパンCへ向かうという全く同じものだった。
「最高の一戦にワクワクが止まらない」(コントレイル主戦騎手・福永祐一)
「強い馬と戦えるのは楽しみ」(デアリングタクト主戦騎手・松山弘平)
2頭の主戦騎手がまだ見ぬ強敵との対戦を「楽しみ」としつつ、相棒への信頼を語ったが、さらにこのレースには現役最強馬・アーモンドアイが参戦することを表明。2頭の2歳上に当たるアーモンドアイもまた、2018年に牝馬三冠を達成した名馬で、その後もG1タイトルを積み上げ、11月1日に開催された天皇賞(秋)も楽勝して、芝GIの勝利数は史上最多となる8勝をマークしたばかりだ。
そんな偉業を達成した馬が3頭も一堂に会するなんて、日本競馬史上に例を見ない最高の一戦になることだろう。
■文/福嶌 弘(フリート)