【ブリーダーズカップ】俺たちはもはや、チャレンジャーじゃない
2026年ブリーダーズカップ回顧録
日本時間午前7時20分ごろ、日本の競馬ファンは悲鳴を上げたことだろう。
ブリーダーズカップクラシック連覇を目指したフォーエバーヤングがキーンランド競馬場の直線で伸びを欠く姿は、誰もが想像していなかったことだろう。
レース後、矢作芳人調教師は「調子はよかったと思うし、ベストのポジションも取れたが......敗因はわからない。申し訳ない」と悔しそうに語ることしかできなかった。
フォーエバーヤングのレース振り自体は決して悪くはなかったように思う。
好スタートからすぐに好位に付けていき、逃げたナイツブリッジをマークするようにテーオーパスワードと並走するように2番手をキープしつつ、後方にいた最大のライバル・ソヴリンティをけん制していた。
そうして迎えた最後の直線。フォーエバーヤングは逃げるナイツブリッジを追いかけて始めたが、いつもなら弾けるように伸びてくる脚が今日は今ひとつ伸びない。
そうこうしているうちに外から並びかけていたソヴリンティに交わされ、同じ位置にいたはずのテーオーパスワードからも離されてしまう。
こんなはずじゃない。こんな走りはフォーエバーヤングの本来の姿ではない――認めたくはないが、これが現実。
ライバルのソヴリンティがゴドルフィンの悲願と言われたブリーダーズカップクラシックを制したのとは対照的に5着でゴールするのが精いっぱいだった。
キャリアを通じて、初めて3着以内を外すことになったフォーエバーヤングだが、これまでの実力を考えるとこれで終わるわけがない。
次のレースでは必ず本来の走りを見せてくれることだろう。レースを終えたばかりの今はただ、リベンジの機会を待ちたい。
フォーエバーヤングは勝てなかったが、それ以外の日本馬は軒並み好成績を収めていたように感じられる。
同じレースに挑んだテーオーパスワードは木村和士騎手が「もしかするとあるかも」と思うほどに直線で見せ場を作った4着に入り、ブリーダーズカップマイルを走ったアスクイキゴミはキャリア4戦目という少なさながら5着に。
また着順こそ振るわなかったが、ブリーダーズカップターフではディープモンスターが逃げて見せ場を作るなど、日本馬はそれぞれ存在感ある走りを見せた。
中でも現地を大きく沸かせたのは、ブリーダーズカップスプリントに挑んだテーオーエルビスだ。
現地の3歳馬でここまでGⅠを2連勝中だったイングリッシュマンが断然の人気となったこのレース。
このイングリッシュマンに続く人気を得たのがテーオーエルビス。半年ぶりの実戦とはいえ、切れ味抜群の末脚はダートの本場アメリカでも通用して、チャーチルダウンズSであっさりと差し切り、GⅠ初制覇を果たしていた。
スタートした瞬間、アメリカンステージらが好スタートを切る中で、先頭を切ったのはアメリカのリアムスミス。
これに続くようにイングリッシュマンが2番手に付けて、その後ろに昨年のこのレースで4着に入ったアメリカンステージが入って、先団を形成。テーオーエルビスはこの時後方から2~3番手という位置取りでレースを進めていた。
そうして迎えた4コーナーから直線への立ち上がり。
これまでトップスピードで飛ばしていた先行馬が苦しくなったところで、イングリッシュマンが満を持して先頭に。
いつものように後続を引き離してワンサイドゲームに持ち込もうとしたが......それに待ったをかけるように伸びてきたのが、これまで後方にいたテーオーエルビスと坂井瑠星だった。
坂井の鞭に応えるように、一歩、また一歩とイングリッシュマンに迫るテーオーエルビスに現地はもちろん、中継を見ている日本の競馬ファンたちも熱狂。
日本時間では早朝4時すぎという早さだが、それでも歴史が変わる瞬間を見たいとばかりに目覚めたファンが声を張り上げた。
ゴールまで残り数十mほどの位置で遂にテーオーエルビスがイングリッシュマンを捕まえた。先頭が入れ替わりトップでゴールした瞬間、日本競馬の新たな歴史の扉が開いた。
ダート最速を決めるスプリント戦でまさか日本馬が勝てるなんて......競馬ファンはもちろん、鞍上を務めた坂井瑠星ですら「信じられない」とレース後にインタビューで答えたほど。
それほどまでにアンビリーバブルな結果がキーンランドの地で起こったのだ。
世界を震撼させた末脚を見せたテーオーエルビス。
そして勝てなかったが、大きな話題を作ったフォーエバーヤング......日本馬がブリーダーズカップに挑戦してちょうど30年がたった2026年。
日本馬たちはアメリカにおいてもはやチャレンジャーではないのかもしれない。
■文/福嶌弘