パンサラッサ 天衣無縫の逃げがのちの世界最強馬を追い詰める【もうひとつの名勝負伝説】

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2025.11.1

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    パンサラッサ(c)SANKEI

    2022年の天皇賞・秋。一線級のライバルを相手に果敢な大逃げを打ち、のちに世界最強馬となる1番人気の3歳馬イクイノックスを最後まで追い詰めたパンサラッサ。

    今回はパンサラッサの現役時代、その活躍を陰で支えた池田康宏元厩務員が教えてくれた、後に「伝説の一戦」とも称されたこのレースの裏側を、関係者の証言から競馬の名勝負の真相に迫る『もうひとつの名勝負伝説〜関係者だけが知る激闘の裏側』(マイクロマガジン社、2025年5月26日発売)より一部抜粋・編集してお届けする。

    海外の芝・ダート両方で勝利を収めた稀代の逃げ馬パンサラッサ。

    その活躍を支えたのが同馬を担当した厩務員の池田康宏である。池田はパンサラッサについて、「ドバイでもサウジでも勝利した名馬ですが、ファンの印象に残ったのはそうした勝利したレースではなく、負けた天皇賞・秋でしょう」と振り返る。

    観る者の脳裏に焼きついたあの大逃げは、海外での歴史的な勝利すら凌駕するインパクトだった。パンサラッサがその走りにたどり着いたのは、陣営のたゆまぬ努力と工夫があってこそである。

    2022年の春、ドバイでGⅠ馬となり帰国したパンサラッサは、夏場が苦手なこともあり、宝塚記念と札幌記念を連敗。

    そこから陣営は、距離も時期も絶好の舞台である天皇賞・秋に向けて一丸となって進んでいたが、放牧・外厩での調整を経てトレセンへと戻ってきたパンサラッサの姿は細く頼りないものだった。

    「パンサラッサは470キロから480キロ前半くらいがベスト体重です。馬体に物寂しさを感じたので急いで計測してみると、やはり458キロとかなり減っていました。北海道からの輸送に加えて夏負けがあったのかと思いますが、本番は約3週間後。その短い期間でどうにかベストな馬体重まで回復させる必要がありました」

    短い日数で馬体重を戻すというミッションは、ただ単純にたくさん食べさせればよいというものではない。調整をしていく中で、体調への悪影響を最小限にとどめながら自然に回復させることが重要である。

    池田は、主食のえん麦を、普段の1日5.5升から6.5升に増やした。矢作厩舎では、飼料の増減はそれぞれの厩務員の判断に委ねられている。池田はそれまでの経験と知識を総動員しながら、1升増やすことがベストと判断したのである。

    「穀類で馬体重を増やすというやり方は、古くは『穀づめ』と呼ばれる手法。そのままだと血液濃度が濃くなって栄養過多になるため、ベテラン厩務員は嫌うやり方ですね。血が濃くなると身体が硬くなるんですよ。サプリを工夫したり獣医師を呼んで点滴をしたりして、どうにか血液がサラサラになるようにしました」

    そうした馬体重を増やす作戦の中で大事になるのが、日々のチェック。

    乗り役に「乗り味が変わっていないか?」「異変や異常の兆候はないか?」というヒアリングを欠かさず、細心の注意を払った。

    馬体をチェックする際は正面と横だけですませるのが一般的だが、池田は後ろや斜め前方などさまざまな角度から筋肉の張りや馬体のメリハリを確認。

    パンサラッサのベストな状態と比べながら、違和感がなく馬体重を増やしているかをチェックし続けた。

    本番の天皇賞・秋を迎えた時、パンサラッサの馬体重は472キロ。前走比プラス2キロまで回復していた。

    装鞍所に駆けつけた矢作芳人も気にして「何キロだった?」と声をかけてきた。馬体重を伝えると「すごいな、さすがの仕上げだな!」と厩務員冥利に尽きる称賛を受けた。

    「パンサラッサは食欲旺盛でカイバ食いがいいのも助けになりました。よく言われる『名馬は自分で身体を作る』というやつですね。さらには、それまで厳しかった残暑が、天皇賞・秋の10日前くらいから急に収まったのも追い風でした。思惑通り、元気いっぱいのパンサラッサに仕上がりました」

    ■パンサラッサ プロフィール
    生年月日:2017年3月1日生まれ
    性別:牡馬
    毛色:鹿毛
    父:ロードカナロア
    母:ミスペンバリー(母父:モンジュー)
    調教師:矢作芳人
    馬主:広尾レース
    生産牧場:木村秀則牧場(新ひだか)
    生涯戦績:27戦7勝
    主な勝ち鞍:サウジC、ドバイターフ、中山記念、福島記念

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    もうひとつの名勝負伝説~関係者だけが知る激闘の裏側

    手に汗握った名勝負、名馬の衝撃のパフォーマンス、あっと驚く大波乱決着、騎手のGI初勝利など、競馬史に残る感動の名レースをピックアップし、関係者への取材を基にそのレースの真相を明らかにしていく一冊です。

    取材対象となる関係者は、そのレースに騎乗した騎手の他、調教師や担当厩務員、調教助手など。騎手のレース中の駆け引きにとどまらず、戦前の馬の様子や陣営の思惑、レース後の感想やエピソードなども取り上げながら、感動と興奮を呼んだあの名勝負の舞台裏に迫ります。


    編:マイクロマガジン名勝負取材班
    発売日:2025年5月26日
    価格:1,980円(本体1,800円+税10%)
    購入:https://www.amazon.co.jp/dp/4867167622/

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    第172回天皇賞・秋(GI)枠順
    枠順 馬名(性齢 騎手名)
    1-1 コスモキュランダ(牡4 津村明秀)
    2-2 アーバンシック(牡4 A.プーシャン)
    3-3 ジャスティンパレス(牡6 団野大成)
    3-4 ソールオリエンス(牡5 丹内祐次)
    4-5 タスティエーラ(牡5 D.レーン)
    4-6 ブレイディヴェーグ(牝5 戸崎圭太)
    5-7 マスカレードボール(牡3 C.ルメール)
    5-8 ホウオウビスケッツ(牡5 岩田康誠)
    6-9 ミュージアムマイル(牡3 C.デムーロ)
    6-10 エコロヴァルツ(牡4 三浦皇成)
    7-11 シランケド(牝5 横山武史)
    7-12 セイウンハーデス(牡6 菅原明良)
    8-13 メイショウタバル(牡4 武豊)
    8-14 クイーンズウォーク(牝4 川田将雅)
    ※出馬表・成績・オッズ等は主催者発表のものと照合してください。

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