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2018.11.05

快進撃の伊藤美誠 スウェーデンOP優勝の裏に「打倒中国」の秘策あり

伊藤美誠 TT News Agency/アフロ


 彼女にはいつだって驚かされてばかりだ。
ITTFワールドツアースウェーデンオープン」女子シングルスで伊藤美誠(スターツSC)が強敵中国のトップ選手を次々と倒し優勝した。シニアツアーにおける伊藤のシングルス優勝は通算6回目、今季は6月のジャパンオープン荻村杯に次ぐ2勝目。

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 11月4日に行われた決勝で世界ランク7位の伊藤は同1位の朱雨玲にストレート勝ちを収めた。準々決勝でも劉詩ブン(同6位)、準決勝では丁寧(同2位)にも逆転勝ちし、その勢いを朱雨玲との頂上決戦に持ち込んだ。伊藤はなぜここまでの圧勝で中国のぶ厚い壁を打ち破ることができたのだろう。そこには伊藤陣営ならではと言える中国人対策があった。


朱雨玲の足を止めたミドル攻めからのストレート攻撃

 朱雨玲との決勝は伊藤本人が「最初の入りを集中した」と話すように、第1ゲームのっけから5連続ポイントのスタートダッシュ。丁寧戦でも見せたミドル攻めからストレートへ打ち抜く素早い攻撃パターンで得点を重ねていく。この速い攻めには中国人選手の中でも身体能力が高いといわれる朱雨玲の足が止まり、伊藤は第1、2ゲームを11-3であっさり先取した。

 だが前半リードしても、途中から軽々と巻き返してくるのが中国勢の十八番(おはこ)だ。いつものようにどこかの時点で朱雨玲は伊藤を攻略してくるだろうと思われた。ところが、いつになってもその気配はなく、第3ゲームも11-5で伊藤が奪取。続く第4ゲームも伊藤の勢いは止まらず、朱雨玲をまったく寄せ付けないままゲームカウント4-0で圧勝した。世界ランク1位を相手に試合時間わずか26分のスピード決着だった。

伊藤美誠 写真:ロイター/アフロ


ワールドツアー2連戦に向けた伊藤陣営の秘策

 今大会の伊藤は1回戦の張薔を含めると、ひとつの大会で4人の中国人選手を破ったことになる。これは2017年4月のアジア選手権で当時世界ランク11位だった平野美宇(日本生命)が、準々決勝で同1位の丁寧、準決勝で同2位の朱雨玲、決勝で同5位の陳夢を立て続けに破り優勝した快挙に次ぐ偉業だ。しかし、その意味合いは異なる。なぜなら当時の平野がまだ中国から警戒されていなかったのに対し、伊藤は研究され尽くした中で中国のトップ選手を破ったからだ。

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 背景にはスウェーデンと翌週のオーストリアオープンのツアー2連戦に向けた、伊藤陣営の中国人対策があった。ちなみに伊藤には専属の松崎太佑コーチと元中国遼寧省の選手だったスパーリングパートナーの王子コーチ、もうひとり松崎コーチの弟でスパーリングパートナーの松崎友佑さん、そして伊藤の身の回りの世話をしながらメンタルトレーナーの役割も担う母・美乃りさんによるバックアップ体制がある。まさに「チーム美誠」と呼ぶべき強力な布陣だが、伊藤の練習相手になる全員が中国ラバー(中国製のラバー)を貼った中国製のラケットを使い、対中国人を想定した厳しい練習を積んできたという。

 だが中国ラバーは日本製のラバーに比べ粘着質で扱うにはスタミナを要する。そのため元中国の選手だった王子コーチですら、伊藤と20分も打ち合えば足腰にダメージが来てヘトヘトになる。そこでもう一人のスパーリングパートナーである友佑さんも慣れない中国ラバーを貼った中国製のラケットを握り、それでもまかないきれないぶんを太佑コーチ、さらには美乃りさんまで中国ラバーのラケットを握って練習相手になったそうだ。

伊藤美誠 写真:ロイター/アフロ


どんなに苦しくても笑いを忘れず発想の転換を

「中国製のラケットは重くて腕がパンパンになるし、全身クタクタ」と美乃りさん。中国選手の回転量豊富な打球を再現するのは男性陣に任せ、美乃りさんは癖のある球や台上で止まる球などを出して伊藤を振り回したという。伊藤をわざとイライラさせるこの特訓を陣営は「ストレス訓練」と呼ぶ。

 もともと気持ち良くラリーを続けるよりも、多彩な打球を臨機応変に返球する実戦に近い練習を主とする伊藤陣営だが、ストレス訓練に関しては選手のフラストレーションもさることながら、重たいラケットでさまざまな球種の球出しをする側の疲労も並大抵ではないという。スウェーデンオープン前は毎日3時間、ストレス訓練を含めた中国人対策をぶっ通しで続けたそうだ。伊藤が中国人選手の打球を早い打球点とスピード、高い精度で思い通りのコースに打ち分けていたのも、この対策練習の成果なのだろう。

 加えてスウェーデンオープンの試合中、伊藤はミスが続いたり相手に流れが傾きそうになったりする場面で意識的に口角を上げ、時には笑顔すら浮かべていた。これもメンタルをコントロールするための秘策のひとつ。伊藤がよく強さの秘訣を聞かれ「卓球を楽しむこと」と答えるが、どんなに苦しい状況でも下を向かず、発想の転換でピンチを乗り切ることを心がけている。その精神は「チーム美誠イズム」とも呼べるもので、練習中や試合前も笑いとユーモアが絶えない。

 スウェーデンオープン決勝前も笑いをエールに変えて伊藤を送り出したというチーム美誠。母・美乃りさんは「私なんてチンケな練習相手。あまりにもオリジナルな練習すぎて、私と打っているところを見たら、皆さんびっくりすると思いますよ」と自嘲するが、足りない要素を知恵と工夫、勝利への執念で補っているのがチーム美誠なのだ。伊藤の独創性あふれるプレースタイルと強靭なメンタリティーはそうした環境があればこそ生まれたものなのだろう。

 6日に開幕するオーストリアオープン<11月6~11日/リンツ>はワールドツアーの中でも格付けの高いプラチナ大会にあたる。勝てば獲得ポイントも賞金も大きい。また同大会は2016年に伊藤が女子シングルス優勝を果たした験のいい大会ということもあって、2週連続のサプライズに期待は膨らむばかりだ。大敗を喫した中国勢はこの数日間で必死の対策をしてくるだろう。伊藤はそれにどう立ち向かうのか。シード選手の伊藤が登場する決勝トーナメントは8日に始まる。

(文=高樹ミナ)

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