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2019.01.23

究極の『メンタル戦』、それが全日本選手権。優勝者のコメントに見る「気持ち」の重要性

全日本卓球選手権大会 優勝の水谷隼、伊藤美誠実 Photo:Itaru Chiba


卓球の日本一を決める国内最高峰の舞台、全日本卓球選手権大会。


取材の中、選手たちの試合後のコメントを聞くと、必ずと言ってよいほど出てくるキーワードがある。それは「気持ち」だ。

「気持ちで相手より少し上回ったのが勝因だと思います」と勝者が語れば、「勝ちたい気持ちが足りなかった」「最後は気持ちの弱さが出てしまった」と敗者はその敗因として"気持ち"をあげることが非常に多い。

全日本卓球選手権大会 試合結果一覧

全日本選手権とは、卓球というスポーツの最上のテクニックを競い合う場だが、その実、出場選手にとっては己の気持ちの強さを競い合う場でもあるのだ。

気持ちの重要性は、今大会でV10を果たした水谷隼(木下グループ)、そして2年連続3冠王に輝いた伊藤美誠スターツSC)、両選手の優勝記者会見でのコメントでもよくわかる。少し抜粋して紹介しよう。

水谷隼 Photo:Itaru Chiba


記者の「全日本選手権でずっと勝ち続けられる要因は?」という質問に対する水谷のコメントだ。

「一番大事なのは気持ちですね。絶対誰にも負けないという強い気持ちを持って臨めたことです。自分の中では、他の大会に比べて全日本選手権への思いがすごく強くて、他の大会では負けても、全日本選手権では絶対に他の選手には負けないという気持ちがありました」

また、全日本選手権引退の真意についてでも

「この全日本選手権が始まる前から、10回優勝したらもう自分の中で満足というか、2年前に9回目の優勝を達成して、記録を更新してからなかなか全日本への思いが強く持てなくて......。周りは優勝をすごく期待するので、そのプレッシャーにもう勝てないというか、自分がもう全日本でラケットを振るのはちょっと無理なんじゃないかという気持ちです。

 やはりこれから年齢を重ねていってパフォーマンスも落ちてくると思いますし、今までの全日本選手権のように強い気持ちで臨むことが難しくなっている。その分、今大会に懸ける思いはものすごく強くて、その思いがあったからこそ今回優勝できたと思いますし、今回優勝したことによって、何か自分の中での全日本への思いというものがプツンと切れました」と、強い気持ちが保てなくなったことが引退の理由だと語った。

百戦錬磨で不動のメンタルの持ち主と思われがちな日本の第一人者・水谷だが、その内面は少し違うようだ。「伊藤美誠の凄さは何か?」を聞かれてのコメントが興味深い。

「彼女のメンタルは素晴らしいですからね。僕みたいなのとは比べものにならないですよ、本当に。(伊藤から)アドバイスが欲しいです。自分は本当にいっぱいいっぱいなんですよ。本当に1試合1試合がいっぱいいっぱいで、1試合勝つことも苦しいのに、彼女のプレーを見ているとすごく試合を楽しんでいるし、見習いたいことが多いですね」(水谷)

天性のボールタッチと多彩なテクニック、どんな状況も打破できる戦術の幅の広さとそれを臨機応変に使い分ける頭脳。水谷の強さを構築するこれらの要素の土台となっているのは、強い気持ち、メンタルだ。しかし、水谷のメンタルは「心臓に毛が生えた」ような強靭なものではない。全日本選手権に対して誰よりも強い思いがあるからこそ、誰よりも臆病になる。これが王者の真実であり、だからこそ己のメンタルに打ち克ち、10度の優勝という偉業を達成した水谷隼は偉大なチャンピオンなのだ。

一方、そんな水谷から羨ましがられるほどの抜きん出たメンタルを持つのが女王・伊藤美誠。彼女は今大会、「楽しもう」という"気持ち"のコントロールで、自身のメンタル戦を制した。

伊藤美誠 Photo:Itaru Chiba


「決勝はめちゃめちゃ楽しかったです。なかなか決勝の舞台で年下の選手と対戦することって、今の年齢だと少ないことなので、改めて今の卓球の女子のレベルの層が厚いなって思ったのと、もちろん誰にも負けたくはないんですけど、それ以上に年下の選手には絶対に負けたくないと思いましたし、優勝を取られたくないという強い気持ちがすごくあったので、目の前のポイントをどういう風に取るかをしっかり考えて、そして勝つことができて良かったです」

「去年三冠したことで、もちろん私の中でもすごく自信はありましたし、ずっと毎回毎回言っていたように、自分の実力を出せれば絶対大丈夫と信じてやってきたので、自分を信じて良かったと思います。どの選手も私を倒すという気持ちでやってきますが、それ以上に私は楽しめたことが一番だったかなと思います。勝ちたい気持ちはあるんですけど、私は『勝つ勝つ』というよりは楽しんだほうが勝てると思っているので、自分のプレーをして楽しもうと思っていたら、こうやって三冠を獲れました」

前回女王としてプレッシャーがかかる中、この大舞台で楽しむ姿勢を貫けるのが、伊藤という選手の凄さだ。

また、「成長した部分は?」という質問に対しても、やはり気持ちの強さをあげている。

「卓球面でも実力はどんどんどんどんついているなとは思うんですが、一番は気持ちの強さが前よりもぐんと上がりましたし、あとは(気持ちの)切り替えの早さ。決勝も4ゲーム目9-3から負けてしまったんですが、いつもだったら、頭が真っ白になっちゃったりするのですが、そこで落ち着いて切り替えれたというのは、本当に成長した部分だと思います」

電光石火の美誠パンチに、チキータ&逆チキータの変幻自在のバックハンドレシーブなど、今大会も様々なテクニックを披露し、観客を沸かせた伊藤。自分を信じる強い気持ちがあるからこそ、大きな舞台でも臆せず自分のプレー、実力を引き出せるのだ。

チャンピオンたちの声からもわかるように、全日本選手権はメンタルの戦いであり、その勝負に勝った者だけが頂点に立つことを許される。1年後の2020年1月。誰よりも強い気持ちでコートに向かい、勝利の女神を振り向かせるのはどの選手になるのだろうか。

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