中村憲剛「忘れることができない光景」子どもたちへの熱いメッセージも
2020.12.22
中村憲剛 引退セレモニー 写真:長田洋平/アフロスポーツ
J1リーグ川崎フロンターレMF中村憲剛選手(40)の引退セレモニーが12月21日(月)、ホームの等々力競技場で行われ、今季を最後に18年間の選手生活にピリオドを打つ元日本代表は「ハンデはチャンス。可能性に自分で蓋をしないで」と、サッカー選手を目指しながら体格差で悩む子どもたちへ熱い励ましのメッセージを送った。
フロンターレの背番号14番として戦ってきた本拠地の等々力競技場で開催された引退セレモニーでのスピーチで、中村選手が言葉に力を込めた場面があった。その一つは、「川崎フロンターレ、最高です!」と、2003年から今季までプレーを続けてきたクラブへの思いを告げた場面だ。
「なにもない大学生を拾ってくれたフロンターレには感謝しかない」と話し、地域密着に特に力を入れるクラブで多くのことを学んだと振り返り、観客もまばらなJ2からスタートして、今日では常に多くのファンが試合に足を運び、4年で3度のJ1リーグ制覇を遂げるまでになった変遷を「みんなが同じ方向を向いた結果」と胸を張って称えた。
そして、もう一つはサッカー選手を夢見る子どもたちに語りかけた場面だった。
「体の小ささや身体能力の低さはハンデではない。小学校、中学校、高校生...、悩んでいる子はいっぱいいると思うが、そうじゃないと僕のキャリアが言っている」と、身長175センチ、体重66キロというサッカー選手としては華奢な体型の40歳が言う。
「みんなに可能性がある。それを自ら蓋をしてほしくないし、指導者も小さいから、足が遅いから使わない、という目線で見ないでほしいと心から願っている」と呼びかける。
そして、こう続けた。
「そのハンデをチャンスだと思ってほしい。自分にベクトルを向けてほしい。その気持ちを持って一日一日頑張れば、必ず道が開ける。そして周りが助けてくれる。明日から新しい気持ちでボールを蹴ってほしい。そして川崎フロンターレは頑張った選手に、こういう素晴らしい舞台を用意してくれる最高のクラブ」と語りかけた。
2003年にJ2でのプロデビュー。2シーズンを経て2005年からJ1の舞台を歩む。通算でJ1では471試合出場で74得点、J2では75試合出場で9得点をマークした。その間、クラブは2017年、2018年とJ1リーグを連覇し、3度目となった今季のリーグ優勝はリーグ史上最速で達成した。
中村選手は、子どもたちへメッセージを送ったことについて、「僕自身が体の小さいことや足が遅いことなどいろいろな劣等感を感じながらやってきた。その劣等感をポジティブに開けることで道が切り開けて40歳までやれた。それは僕が歩んできた道そのもの」と話した。
自分らの歩みに重ねて、自分の可能性を信じ、自らの武器を見つけて磨くことで世界や未来を広げることができる。前向きに挑むことの大切さを伝えたいという思いを滲ませていた。
「忘れることができない光景」
J1リーグの優勝報告会も兼ねた中村選手の引退セレモニーは、冬空の下、夜7時から約2時間行われたが、多くの人の愛情と感謝の気持ちが感じられる、心温まる時間となった。
約1万2千人を超えるサポーターがスタジアムで見守る中、地元の消防署や警察署も登場して始まったセレモニーには、横浜FCのFW三浦知良選手、ヴィッセル神戸MFアンドレス・イニエスタ選手、元フロンターレFWジュニーニョ選手がビデオでメッセージを寄せた。
スタジアム中央のステージにはFW大久保義人選手(東京ヴェルディ)やFW鄭大世選手(新潟)らともにプレーした多くのクラブOBが顔を揃え、中村選手は現役生活を支えた家族からのメッセージと花束を受け取り、アメフッットチームの富士通フロンティアーズの選手が担ぐみこしに乗って場内を回ってファンに手を振った。
登壇者の中には中村選手が2003年の入団当時、チームを率いていた関塚隆氏の姿もあった。2004年のJ2優勝でJ1昇格へ導いた元監督は、中村選手の1年目の合宿で「華奢だな。一年持つのか」という第一印象を明かし、しかしすぐに優れた技術と判断力、中でも「インサイドの強い縦パスをどこで活かすのか」に着目。ボランチ起用を試すようになったと振り返った。
そのプレーの質の高さを示す場面として、関塚氏は2006年に熊谷で行われた大宮戦で中村選手がジュニーニョ選手のゴールをお膳立てしたインサイドでのパスを挙げて、「中村選手の成長とともにフロンターレがどんどん成長していった」と語った。
大久保選手は「13年に移籍してからはサッカーが本当に楽しくて、憲剛さんからのパスは自分の宝。感謝したい」と話し、鄭大世選手は「どのクラブに行っても、挨拶の次には必ず『中村憲剛、ヤバいですか?』と訊かれる。サッカー不毛の地と言われた川崎を、まばらな観客から、J最強と言われるまで押し上げて辞める。かっこいい」と話した。
中村選手とともに今季を含めて4年で3度のJ1制覇を遂げたFW小林悠選手は、「2017年に優勝、あれを超える感動はこの先ないと思う。憲剛さんがいなかったら今の自分は絶対にいないと断言できるぐらい、憲剛さんの存在は大きかった」と涙で言葉を詰まらせながら言葉を紡いだ。
「みんなの思いがありがたすぎて」と涙を見せたセレモニーを終えて、中村選手は「一生忘れることができない光景がまた一つ増えた。試合とは違った光景で、『引退するんだ』と思った」と話した。
指導者になることも視野に入れている中村選手は、将来の代表監督への関心を訊かれて「過程を経て、タイミングがあえば、もちろんなりたい」と答え、「そうなるには勝たないければいけないし、評価されないといけないので、自分からは『絶対に目指します』と軽々しく言えるポジションではないことはよく知っているが、目指すのは自由。指導者として頑張れれば」と話した。
川崎はJ1制覇によって天皇杯準決勝へ駒を進めた。12月27日にホームでの準決勝でJ3リーグ優勝のブラウブリッツ秋田と福山シティFC(広島)の勝者と対戦する。勝てば1月1日に国立競技場で行われる決勝がある。
「みんなとできるのもあと10日。準決勝にしっかり臨んでその先に進みたい。全力でいい準備したい」
中村選手は力強く、そう言った。
取材・文:木ノ原句望