【エリザベス女王杯】女王のティアラは突然に ブレイディヴェーグがレース史上最少キャリアV

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2023.11.15


2023 エリザベス女王杯(GI)ブレイディヴェーグが優勝 写真:山根英一/アフロ

第48回エリザベス女王杯回顧

「へぇ~。これがGⅠの舞台なんだぁ」――

ブレイディヴェーグのパドックでの様子を見ていると、まるでそう言っているかのように見えた。

デビュー2戦目で初勝利を挙げたとはいえ、同日のメインレースは同じ3歳牝馬の重賞クイーンC(GIII)。2歳王者リバティアイランドが絶対的女王として君臨した今年の3歳牝馬クラシック路線で未勝利戦を勝ち上がったばかりの彼女が注目されることは当然ながらほとんどなかった。

初勝利を挙げた日に行われたクイーンCを制したハーパーらが打倒リバティアイランドに向けて必死の勝負を繰り広げている中、彼女は静かに自身を磨き続けた。

オークス(GI)が終わって1ヶ月後、ようやく彼女はデビュー3戦目を迎えた。1勝クラスとはいえ初の古馬相手のレースでも難なく突き抜け快勝。初めての2000m戦でも危なげなく走るそのポテンシャルを見た陣営は秋に期待を膨らませ、真夏の間を休養に充ててローズS(GII)で秋華賞を目指した。
 
そのローズSでブレイディヴェーグは2着に敗れたが、外から猛然と伸びてきた末脚は上がり3ハロン32秒9という破壊力のあるもの。

出遅れてしまったために届かなかったが、あのリバティアイランドをも彷彿とさせる末脚を見て、多くのファンがブレイディヴェーグの存在を認知した。

そして、秋華賞でのリバティアイランドのライバルとして注目しはじめたが......秋華賞の舞台に彼女の姿はなかった。

秋華賞でリバティアイランドと対戦するのではなく、リバティアイランドと対峙するときに彼女のライバルとして見合うだけの実績を付けたいと考えた陣営は彼女を古馬相手のエリザベス女王杯に挑ませた。

ちなみにブレイディヴェーグをローズSで破ったマスクトディーヴァは秋華賞でリバティアイランドの2着に好走。これをみるとこの馬の実力がおのずとわかることだろう。

そうして迎えたエリザベス女王杯。三冠牝馬リバティアイランドがエントリーしなかったことでどの馬にもチャンスがある一戦とはなったが、出走15頭中、GⅠホースは1頭だけというやや寂しいメンバー構成。その中でブレイディヴェーグはなんと、単勝2.4倍の1番人気に支持された。

ここまでキャリア4戦。GⅠどころか重賞すら制していない上に重賞を走ったのも前走が初めてという彼女だが、彼女の走りを見たファンたちは「この馬なら何かやってくれるかもしれない」と思いを馳せ、この舞台での戴冠を支持した。

そんな中で迎えたパドックで彼女は冒頭のような雰囲気で周回。厩務員2人に引かれて一見、落ち着いて歩いているように見えたが、首を厩務員の方に向けて歩く様子は「これがGⅠのパドックなの?」と話しかけているかのよう。

どこか無邪気な様子さえ感じさせ、「早く走らせなさいよ!」と言わんばかりに闘志を燃やす昨年の女王・ジェラルディーナとは対照的にさえ映った。

返し馬でもこの2頭は対照的だった。燃え上がらんとする闘志をむき出しにしてファンの前を駆け抜けていったジェラルディーナに対し、ブレイディヴェーグはどこかフワフワとした様子。

美しいストライドで疾走していったが、闘志を前に出すというよりも「いつも通りに走った」という雰囲気。GⅠレースということを認識しているのか否か、これまでのレースのような心持ちで迎えているようにすら思えた。

そうした「GⅠの大舞台」を意識しすぎなかったことが、却ってよかったのかもしれない。

ゲートが開いた直後、ブレイディヴェーグはいつもよりも前に出ていた。ここまで4戦中出遅れ3回、残る1回もアオってしまい出負けするという具合にゲートに難を抱えていた馬にしてはキレイなスタートを見せ位置を取りに行った。

対照的にジェラルディーナは闘志が空回りしたのか、後方からのレースとなってしまった。

アートハウスが逃げ、2番手にローゼライトが付けるという展開になった前半、ブレイディヴェーグの位置取りは5番手グループ。

その前にハーパーがいて、すぐ後ろにはジェラルディーナがいるという状況。2頭にマークされる形になったとも取れるが、それすら気にしないという様子で前半1000mを1分1秒1というペースについていった。

3コーナーを過ぎ、坂を下り始めたところで後続が動き始め、中でも昨年の女王ジェラルディーナが早めに動いていく動きを見せた。

それを見てもブレイディヴェーグと鞍上のルメールは動かない。内に入ったままで脚を溜めて直線を迎えた。

逃げるアートハウスが懸命に粘る中、外から猛然と各馬が迫ってきたが先に動いたハーパーが懸命に前を追いかけ、それをジェラルディーナが捕まえようとしているという様子。しかし2頭もじりじりとしか伸びずになかなか前を取られられずにいた。

残り200mを過ぎてもまだ先頭はアートハウス。母が届かなかったGⅠ制覇に向けてもうひと踏ん張りで粘りこみを狙う彼女をようやく捕まえた馬がいた。

それが、ブレイディヴェーグだった。直線で末脚のエンジンがかかったかのように伸びてくると残り200mを過ぎたところで逃げるアートハウスを捕まえて先頭に。

ブレイディヴェーグに合わせる形でスパートを掛けてきたルージュエヴァイユやライラックらが差し切ろうとする中で、ブレイディヴェーグが3/4馬身、踏ん張ったところがゴール。キャリア5戦でのエリザベス女王杯制覇はレース史上最少記録。新たな女王が生まれた瞬間だった。

「馬場が緩くて心配だったけれど、能力を見せてくれた。3歳馬としてGⅠを勝ててすごいと思う」と鞍上のルメールはインタビューでブレイディヴェーグの奮闘を手放しで褒めたたえ、若きプリンセスの誕生を心から喜んでいるようだった。リバティアイランドとの対戦経験がない同い年の3歳馬からまた1頭、大物が誕生した。

そんな大仕事を成し遂げたにもかかわらず、優勝レイをかけられて記念撮影に臨む彼女はどこかおとなしい。まるで自分がGⅠホースになったことをわかっていないかのように。

キャリア5戦で古馬を蹴散らし、新たな女王の座に就いた若きプリンセス・ブレイディヴェーグはこの後、絶対女王として君臨するリバティアイランドと対峙した際、どんな様子で走るのだろうか......

その日が早くも待ち遠しくなってきた。


■文/福嶌弘


■第48回エリザベス女王杯(GI)着順
11月12日(日)3回京都4日 発走時刻:15時40分

着順 馬名(性齢 騎手)人気
1着 ブレイディヴェーグ(牝3 C.ルメール)1
2着 ルージュエヴァイユ(牝4 松山弘平)5
3着 ハーパー(牝3 川田将雅)3
4着 ライラック(牝4 戸崎圭太)4
5着 ジェラルディーナ(牝5 R.ムーア)2
6着 サリエラ(牝4 T.マーカンド)6
7着 ディヴィーナ(牝5 M.デムーロ)8
8着 イズジョーノキセキ(牝6 岩田康誠)13
9着 シンリョクカ(牝3 木幡初也)12
10着 ククナ(牝5 浜中俊)14
11着 ビッグリボン(牝5 西村淳也)11
12着 ローゼライト(牝5 和田竜二)15
13着 アートハウス(牝4 坂井瑠星)9
14着 ゴールドエクリプス(牝4 岩田望来)10
15着 マリアエレーナ(牝5 三浦皇成)7

※出馬表・成績・オッズ等は主催者発表のものと照合してください。