【安田記念】ジャンタルマンタルがマイル王に!古豪を力でねじ伏せ若武者がマイル王の頂へ

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2025.6.8


(c)SANKEI

1年前と今日とで、ここまで評価が変わるのか――

安田記念のパドックでジャンタルマンタルの単勝オッズを見た際、そんなことを思った。

1年前の安田記念にジャンタルマンタルは出走していなかったが、当時の彼はNHKマイルCを制したばかりの3歳マイル王。

それもただ勝ったのではなく、2歳女王のアスコリピチェーノとのマッチレースで力の違いを見せるかのような強い勝ちっぷりで制している。

近年のNHKマイルC勝ち馬の中でもダントツと言っていいほどのパフォーマンスを見せた彼の未来は明るいものだと信じていた。

ロマンチックウォリアーが突き抜けた昨年の安田記念後、「もしここに、ジャンタルマンタルがいたらどうだったのだろう」と空想した方は少なくないだろう。

1年後の今日、第75回安田記念の舞台にジャンタルマンタルはやってきた。

NHKマイルCで見せたパフォーマンスを考えれば、古馬になってから挑む安田記念は堂々たる主役としてやってくるだろうと思われていたが、単勝2番人気。オッズにして4.3倍という数字が付けられていた。

あのNHKマイルCでのレース振りを見ると、にわかに信じがたいこの評価。

マイル戦ででは負け知らず、距離が長かったレースでも3着を外したことがないという3歳春の時点でGⅠを2勝しているという世代屈指の実力馬。

そんなジャンタルマンタルはかつてのタイキシャトルやモーリスのような絶対的な王者としてこの路線に君臨しているだろうと思われていたのだが... たった1戦、香港マイルでの大敗がこの馬の評価を変えてしまった。

今思えば、香港マイルはジャンタルマンタルにとっては苦しいレースとなった。

予定していた富士Sを熱発のために走ることができず、NHKマイルC以来の実戦となり、しかも初の海外遠征。まだキャリアの浅い3歳馬にはあまりに厳しい条件で、本調子でないことは明らか。そう考えれば13着と大敗したのも致し方ない。

だが、世間の目は厳しかった。ただでさえNHKマイルCの歴代勝ち馬はその後活躍するケースが少なめ。

2020~2024年のNHKマイルC勝ち馬5頭のうち、NHKマイルC後にも勝利したのはわずか2頭。多くの馬はNHKマイルCが最後の勝利となり、その後精彩を欠くというケースが目立った。

そんなジンクスも相まってか、今年の安田記念でジャンタルマンタルが絶対視されることはあまりなかった。

強いことはわかっていても成長力を不安視されたり、NHKマイルCの勝ち馬のジンクスに引っ張られたりした結果がこのオッズだったのだろう。

曇り空の中で迎えた今年の安田記念のパドック。出走18頭の中で最も自信に満ち溢れていたのが1番人気に支持されたソウルラッシュだった。

安田記念にはこれで4年連続4回目の出走。昨年の3着が最高成績だった彼はこのレースを機に奮起。

秋にはマイルCSを制してGⅠホースの仲間入りを果たすと、7歳になった今年はドバイターフであのロマンチックウォリアーを破る大金星を挙げた。

この1年でそうしたタイトルを重ねたことが自信になったのか、どこか堂々と胸を張って歩いているようにさえ見えた。

一方のジャンタルマンタル。日本のファンに姿を見せたのはNHKマイルC以来となる。

馬体重は香港マイルからはマイナス5キロで498キロだったが、筆者には数字以上に馬体が大きく見えた。

以前はいかにも短距離馬という感じのガッチリとした感じだった馬が、まるで背が伸びたかのようにスラッとした。もともとの持ち味である柔らかさをより感じさせる素晴らしい馬体を見せてくれた。

この1年で自信を付けた古豪と、この1年、雌伏の時を過ごした若武者―― 今年の安田記念はこの2頭の一騎打ちになると確信した。

そうして迎えたレース。スタートからマッドクールとウインマーベルの2枠の2頭がハナを争い、そのすぐ後ろの3番手にジャンタルマンタルが付けた。その位置取りはまるで1年前のNHKマイルCのリプレイを見ているかのよう。

あの時も前半3ハロンの時計は34秒3と東京マイルのGⅠにしてはスローな流れとなったが...今年の安田記念の前半3ハロンのタイムも35秒0。

ジャンタルマンタルにとってはピッタリの流れに。その時と同じく鞍上にいる川田将雅とともに、人馬ともに感じたことだろう。

「このレース、もらった」と。

ジャンタルマンタルのすぐ後ろ、インコースで脚を溜めていたのが、クリストフ・ルメールが乗るシックスペンスがいて、ソウルラッシュは中団よりやや後方。

昨年と同じような位置で脚を溜めていた。久しぶりにタッグを組んだ浜中俊とともにその走りには何も迷いが見られない。むしろ「昨年とは違う」と走りからも自信に満ち溢れていた。

そんな古豪ソウルラッシュと若武者ジャンタルマンタル、それぞれが思惑を抱いたまま、最後の直線に入った。

序盤からレースを引っ張ったマッドクールとウインマーベルが激しく先頭を争い始めるが、それを見ながら余裕を持って追い出したのがジャンタルマンタルだった。

川田の鞭に応えるようにじわりじわりと先行する2頭に迫っていった。

そんな先行馬たちを見ながら、猛然と追い込んできたのがソウルラッシュだ。

ゴールまで残り400mを過ぎたところから、猛然とスパートを開始。

その姿はこれまでとは全く違う鬼気迫るもので浜中の鞭が一発入るたびにグンと伸びてくるが、直線が長いせいか、それとも仕掛けが早かったのか、前を行くジャンタルマンタルらに追いつけない。

じりじりと追い上げていくのが精いっぱいという形になった。

残り200m。そんな2頭の明暗が分かれた。


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ようやく先行する2頭を捕まえて先頭に立ったジャンタルマンタルは川田の左鞭が入るたびにスピードを上げて、後続との差を離していく。その走りは香港での大敗のショックを全く感じさせない力強いものだった。

そんなジャンタルマンタルに負けじと追い上げるソウルラッシュだが、あと一歩の伸びがない。

ジャンタルマンタルとの差はじりじりとは詰まっていくが、いつものように弾けず、気が付けば外からやってきた伏兵ガイアフォースに並ばれて万事休す。だが、香港最強馬を破った意地をみせてもうひと伸び。

だが... 馬群から完全に抜け出したジャンタルマンタルはそのままリードを保ち、ゴールへと飛び込んだ。

2歳時の朝日杯FS、3歳時のNHKマイルC。そして4歳になった今年の安田記念とマイルGⅠ3勝目を決めた。その1馬身半後ろにガイアフォースが入り、ソウルラッシュは昨年と同じく3着に終わった。

「久しぶりにこの馬らしく走れて、ホッとした」―― レース後のインタビューで川田はこう答えた。

最後に勝利したNHKマイルCからはおよそ1年、惨敗した香港マイルから約半年もの月日をかけて立て直し、ようやくつかんだマイル王の座。

一度地に塗れたからこそ、その頂から見た景色はより美しいものとなったことだろう。

そして川田は高らかにこう宣言してくれた。「この先も無事に競馬場に来られれば素晴らしい走りができる」と。

日本最強となったマイル王・ジャンタルマンタルの王者の走りを次はどこで見られるのだろうか......その日が来るのが本当に待ち遠しい。


■文/福嶌弘


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