NEWS新着情報

2019.12.10

石川佳純、平野美宇 熾烈な五輪選考レースを陰で支える人たち。そこには家族の絆が

ノースアメリカンオープン 女子 シングルス 決勝 石川が優勝 写真:新華社/アフロ


石川佳純vs平野美宇 北米OP直接対決の勝敗を分けた場面とは?

 息詰まる一戦だった。わずか3メートルほどの距離で向き合う2人の間に流れる重苦しい空気。異国の地カナダでその意味を知る人は果たしてどれくらいいたのだろう。

厳しい競争を経て、ついに残り1席となった東京2020五輪の女子シングルス代表枠。これをぎりぎりまで争う石川佳純(全農/世界ランク10位)と平野美宇(日本生命/世界ランク11位)が、ITTFワールドツアーの格下大会にあたるチャレンジプラス「ノースアメリカンオープン」<12月4日~8日・本戦/マーカム>まで出向き、決勝で直接対決となった。

その結果、軍配は石川に。初めから気迫のプレーで2ゲームを先取した石川は中盤、平野に盛り返されそうになりながら、最後はゲームカウント4-2で勝利をもぎ取った。大きな1勝を手にした石川は大会前、代表選考レースで平野に65ポイントリードされていたが、これを自身の135ポイントリードに変えた。

ノースアメリカンオープン 女子 シングルス 表彰式 優勝:石川佳純、準優勝:平野美宇


卓球の東京2020五輪日本代表は、2020年1月の世界ランクで日本人上位の2人にシングルスおよび団体戦の代表候補が決まる。3枠ある団体戦の1枠は協会推薦で決まる。世界ランクを決める国際大会のポイントの有効期限は原則1年間(一部大会を除く)。加算されるのは成績の良い8大会に限られることから、ノースアメリカンオープンのポイントがカウントされるには石川も平野も優勝するしかなかった。

この土壇場で優勝した石川は試合後、思わず感極まって涙した。実は今大会の舞台トロントのマーカムには2017年女子ワールドカップでも訪れており、その時はまさかの初戦敗退に悔し涙を流した苦い思い出の場所だった。

 2人の勝敗を分けたのは、ほんの少しの差だったように思う。それが顕著だったのは石川がゲームカウント2-1リードで迎えた第4ゲーム。先に平野が10-8でゲームポイントを握ったところから石川が追い上げ、3回のデュースを経て14-12でこのゲームを奪取した場面だ。

もしこの競り合いを平野が制していたら、結果はどちらに転んでいただろう。平野を指導する張成コーチも敗因に第4ゲームを挙げ、「平野の調子は悪くなかったが、大事なポイントで思い切りが足りなかった。平野は(自分の打球を)入れよう入れようとしていた。

その点、石川選手は思い切りプレーしていて、特に台上処理が良かった」と話す。また平野自身も、「大事なところでのちょっとの迷いが勝敗を分けてしまった。自分に自信が足りなかった。もっとサーブ3球目とかも思い切って行けたかなと思う」と試合を振り返っている。


 他方、「思い切ったプレーができた」と自負する石川はこう話す。「私も美宇ちゃんも精神的に苦しい状態で決勝であたって、本当に自分との戦いだった。勝ちたいのに勝てない試合がずっと続いていて、すごくつらい時間だったが、(今年10月の)女子ワールドカップから少しだけ吹っ切れて徐々にいいプレーができるようになってきた」

石川が転機に挙げる女子ワールドカップは日本から自身と平野のみが出場した大会で、上位に進出すれば高得点を獲得できた。だが、結果は平野が1回戦負け、石川も2戦目の準々決勝敗退と振るわなかった。

この時、石川はそれ以前の大会で見せていた険しい表情から一転、「大事な試合だとわかっていても、勝つ時は勝つし負ける時は負ける。あまりオリンピックのことばかり考えず、自分に今できることをしっかりやりたい」とすっきりした様子で話していた。これが2度の五輪代表争いを勝ち抜いた経験則というものかと印象に残った。


 その言葉通り、先月のT2ダイヤモンド・シンガポール大会後、ノースアメリカンオープンまでの約1週間で石川は自分のできることに集中した。そのひとつがサーブで、試合の主導権を握るため長いこと強化してきたサーブを、直近の敗戦で得たヒントをもとに、さらに改善してきたという。背中を押したのは、「チャンスがある限り絶対に最後まで諦めない」という強い気持ち。

「オリンピックの代表選考レースは何度経験しても苦しいもの」と石川は言う。まだ19歳の平野も前回のリオデジャネイロ2016五輪でリザーブに甘んじた悔しい経験を持つ。そんな選手たちの奮闘を陰で支える人たちが必ずいて、そこには家族の姿があることも今大会に見て取れた。

ノースアメリカンオープンの決勝前夜、スタッフとして大会に帯同していた石川の母・久美さんはなかなか寝付けなかったそうだ。「そうしたら、娘も一緒で」と久美さん。石川はそんな家族やコーチらに、「正直ずっと満足いくようなプレーができていなかった。それでも諦めずに支えてくれた周りの人に感謝したい」と日頃の思いを口にした。

 平野にも2018年3月のプロ宣言を機に山梨の実家から上京し、東京でともに暮らす父・光正さんがスタッフとして帯同していた。大事なチャンスを掴めず、練習場の隅で泣きじゃくる娘に寄り添いながら、光正さんは張コーチを交え試合の反省点について話し合っていた。苦しい五輪代表選考レースを戦っているのは選手本人だけではないのだ。

 果たして東京2020五輪の卓球日本女子代表の座を射止めるのは石川か平野か。シングルス2枠中の1枠はすでに伊藤美誠(スターツ)が確実にしている。

決着は今週12日に開幕するワールドツアー・グランドファイナル<12月12~15日/中国鄭州>でつく。シーズンの締めくくりとして2019年ワールドツアーの成績上位者16人が参加するハイレベルな大会で、世界最強の中国からも女子10人が出場する。厳しい戦いになるのは必至だが、五輪日本代表レースの結末は誰にもわからない。


(文=高樹ミナ)


  • 1

【関連リンク】

この記事を共有する

関連ワード