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2015年5月21日 放送
日本の国宝を守れ!
文化財修復会社トップは英国人アナリスト

- 小西美術工藝社 社長 デービッド・アトキンソン
日光東照宮の華麗な陽明門で修復を手がける小西美術工藝社は、300年以上の歴史を持つ老舗の職人集団。その社長は、元金融アナリストで英国人。ひょんなことから社長に就任したが、「伝統」の名の下にどんぶり勘定で生活も不安定だった職人の会社を大改革した。さらに、観光立国を目指す日本の切り札は、貴重な文化財だと主張する。知られざる文化財修復の世界に身を投じた、日本を愛する英国人の「伝統」改革と提言とは?
社長の金言
- 文化財こそ
観光立国の切り札Tweet
RYU’S EYE
座右の銘
放送内容詳細
知られざる“文化財修復”のエキスパート集団
世界遺産・日光の社寺の1つで徳川家康を神として祀る「日光東照宮」。今年は、家康の没後400年にあたり、観光客で賑わっている。そして、境内では、国宝「陽明門」の修復が半世紀ぶりに行われている。陽明門は、高さ11.1メートル。その一番上の層で、職人たちが息をつめて緻密な作業している。修復費用は10億円で、作業は4年がかり。修復を手掛ける小西美術工藝社は、創業300年以上の老舗で、東照宮が創建当時の姿を保っている背景には、知られざる職人集団の存在があった。
イギリス人アナリスト社長 古い因習をぶち破る!
そんな技術と伝統ある職人を率いるのは、なんとイギリス人のデービッド・アトキンソンだ。もともとはアメリカのゴールドマン・サックス証券の金融アナリスト。全く畑違いの経歴だが、裏千家で茶名を持つなど日本文化への造詣は深い。次期経営者を探していた小西美術の前社長に「数字が分かって日本文化にも詳しい」と請われて入社した。しかし入ってみると、「伝統」という名のもと職人の世界はどんぶり勘定で、解決すべき問題が山積していた。例えば若い職人の離職率は8割近く、職人不足が深刻だった。そこで、アトキンソンは、300年の伝統を持つ会社で様々な改革に乗り出した。 アトキンソン改革①:職人の正社員化と待遇改善 アトキンソン改革②:どんぶり勘定を止め徹底的に無駄を省く アトキンソン改革③:仕事の進捗状況や原材料仕入れを数値化し効率アップ
失敗を謝り修復やり直し 最高の品質を守る社風へ
さらに、アトキンソンは、高い品質を要求する。陽明門の社内検査でも、職人の仕事に容赦なくダメを出す。そこには、苦い経験があった。アトキンソンが社長に就任する前の住吉大社の補修で、塗装がすぐには剥げ落ちるという大問題が起きていたのだ。アトキンソンは何度も門前払いをされながらも住吉大社に足を運び謝罪。そして、修復をやり直し、住吉大社の信頼を回復した。「外国人社長」に反発していた職人たちも、その姿を目の当たりにして、アトキンソンを見る目が変わる。そして、アトキンソンが求める高い水準の仕事をしようと、より良い仕事をするようになった。
熊谷の奇跡に学べ‥観光立国の切り札は文化財
小西の修復によって激変した寺社がある。埼玉県熊谷市にある「歓喜院(かんぎいん)」だ。建立されてから260年が経ち、本殿はボロボロだった。しかし、2003年から7年がかりで、総額13億円かけて修復した結果、なんと国宝に指定されたのだ!観光客数のデータさえなかった寺は、年間82万人が訪れる観光名所に変身。アトキンソンは、「日本が観光立国を目指す切り札は文化財」と主張。文化財の修復に国がもっと力をいれるべきだと主張している。
ゲストプロフィール
デービッド・アトキンソン
- 元ゴールドマン・サックス証券アナリスト。裏千家茶名「宗真」。
- 1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学で日本学専攻。
- 2007年に退社した後は、趣味の茶道に没頭する隠遁生活を送っていたが、請われて小西美術工藝社の社長に就任。
企業プロフィール
- 江戸時代寛永年間に創業。「漆塗・彩色・金工・金箔押・美術工芸品」という各種装飾技術を総合的に併せ持つ唯一の会社。売上高は9億円5000万円で社員数は71人。

国宝級の文化財修復事業を行う会社のトップがイギリス人、しかも、前職は証券のスーパーアナリストだった。異質な感じがする。だが、そもそも「異質」「特別」という感覚こそが、合理性・客観性を阻害するとアトキンソン氏は言う。日本は観光立国を標榜しているが文化財保護・修復の予算は微々たるもの。外から来る人の立場に立ち、何をして欲しいのか、何が足りないのかを考えて思いやり、変えるところは変えていく、それが真の「おもてなし」ではないか。その言葉は辛辣だが、正しい。「おもてなし」というのは、心ではなく、具体化されたシステムなのだ。