おかやま山陽高校・堤監督の”66個の教え”と三年生最後の舞台
そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない
「目指せ甲子園」
その言葉は彼らにとって、単なるスローガンではなく、現実に追う目標だった。
なぜなら、おかやま山陽高校は近年、確かな成長を遂げ甲子園にも出場した岡山県屈指の強豪だからだ。
部員は総勢99人。監督に惹かれてやってきた者が多い。堤尚彦にはそれほどの求心力がある。
監督に就任して15年目。去年には東京五輪を目指す野球ジンバブエ代表監督を兼任するなど異色の経歴を持つ男だ。
堤の指導で強くなってきたおかやま山陽。そこに凝らされた知恵の1つが、たとえば出口のこの張り紙。
ー無理、もうダメだと思ってからもう少しだけ、今できることを少しだけやってみる。ー
堤監督の"66個の教え"
堤の教えは全部で66個あり、練習場のいたる所に掲げられている。
今年とりわけ大切にしているという言葉があった。トイレに入ると、その中に貼られていたのは・・・
ー甲子園を愛しているのではなく、野球を愛している。ー
しかし無情にも新型コロナの影響で甲子園がなくなった夏。
おかやま山陽野球部は、3月に練習を自粛し、6月に再開した。集まることもできなかった空白の時間。チームの絆を感じたことが唯一の救いだったという。
自粛期間中、部員と毎日かわしていた練習ノート。
すごく野球がしたい。やっぱり甲子園を愛すのではなく野球を愛している。一日でも一分でも一秒でも早く野球がしたい。
三年生の高校最後の舞台
やってきた岡山県独自大会。甲子園がなくなった今、三年生は、これが高校最後の舞台になる。
初回に3点を失い、1点を返して3回、バッターは4番の漁府(ぎょふ)。
客席にいるプロ9球団のスカウトの前で、高校通算23号となる逆転スリーラン。堤が信じた才能は本物だった。
【動画】おかやま山陽高校 硬式野球部 異色の指揮官と選手たちの特別な夏の記録/Humanウォッチャー
チームは初戦を突破し、2戦目も勝利。ベスト8に駒を進めた。
監督歴15年。甲子園のない初めての夏は部員たちの未来を案じるばかりだった。優勝を狙える戦力。
順調に勝ち上がるチームに一つ気がかりがあった。
諦めない、10万回スイングしたバット
9番ショートの左打者、森原健太の打撃の状態だ。
中学時代は県大会で優勝するなど岡山では知られた選手だった。だが高校で伸び悩む。
しかし森原は諦めなかった。甲子園でプレーしたいという思いを糧に、10万スイングを目標にバットを振り続ける。塗装のはげたバットは努力の証。
10万スイングを達成した森原は9番ショートのポジションをつかんだ。
準々決勝。おかやま山陽は序盤にリードを奪うが8回に追いつかれる。
3対3で直後の9回、ツーアウトながらランナー三塁のチャンスでバッターは9番の森原。代打もありえたが堤は森原に賭けた。
果たしてその賭けは吉と出た!
森原の殊勲の一打でおかやま山陽は勝利をものにした。
駆け抜けた最後の夏
優勝まであと二つ。準決勝の相手は去年秋の県大会を制した創志学園。
1点リードで終盤8回。
ツーアウト1、2塁のピンチ。
逆転を許すも、その裏なんとか追いついたが9回にもランナー1、3塁のピンチを招く。
ここでまさかの悪送球で無情の幕切れ。
試合後、堤が選手を責めることはなかった。
この夏、駆け抜けた自分たちのグラウンドはずっと忘れない。