金メダル5個 柔道ニッポン快進撃 井上康生監督が築いた「熱意」「創意」「誠意」

柔道

2021.8.10

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柔道日本代表 写真:森田直樹/アフロスポーツ

東京オリンピックで柔道は男女計9つの金メダルを獲得した。

この数は日本オリンピック史上最多。そのうち男子は全7階級のうち60kg級の高藤直寿(パーク24)、66kg級の阿部一二三(同)、73kg級の大野将平(旭化成)、81kg級の永瀬貴規(同)、100kg級のウルフアロン(了徳寺大学職員)の5つと過半数を占めた。

 前回のリオで男子は金メダル2つ、ロンドンでは金メダルゼロだったことを考えると、男子柔道は復権したといっても過言ではない。

中でも大会初日に出場した高藤から第4日の永瀬まで4日連続で優勝者を出したことで、日本柔道は完全に勢いづいた。市井の人々からは「今回のオリンピックは、柔道と卓球が面白かった」という声をよく聞く。

 柔道の盛り上がりのピークは7月25日に阿部と実妹・詩が日本夏季オリンピック史上初めてきょうだいで同日優勝を遂げたときだろうか。

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日本夏季オリンピック史上初のきょうだい同日優勝の快挙を果たした 阿部一二三・詩 Photo:Itaru Chiba

 阿部は一回戦から決勝までいずれの試合でも大外刈を有効に使っていた。

得意の背負投が警戒されていることはわかっていたので、足技で勝負を仕掛けたのだ。担がれまいとする対戦相手に対して足技は有効だった。「今まで自分が獲った金メダルの中でも、最も重い金メダルです」(阿部)

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阿部一二三 Photo:Itaru Chiba

 リオで銅メダルだった屈辱を晴らした60kg級の高藤は、その苦い経験を活かしたうえでの優勝だった。一本勝ちは初戦のみ。それだけ勝ちにこだわった証拠だろう。

「豪快に勝つことはできなかったけど、これが僕の柔道」(高藤)。「泥臭くてもいい」と開き直ったところが最大の勝因だったか。

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高藤直寿 Photo by Harry How_Getty Images

 リオに続き73kg級を連覇した日本柔道の"絶対王者"大野も順風満帆に勝ち進んだわけではない。

ディフェンディングチャンピオンとして今まで以上にマークが厳しかったからだ。準決勝に続き、決勝も攻めあぐんだが、延長戦では支釣込足によって技ありを奪って連覇を達成した。試合後、大野は今大会のテーマは我慢だったと打ち明けた。

「初めて自分の実力で我慢とともに勝ち取れた金メダルだと胸を張って言える」(大野)

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大野将平 Photo:Itaru Chiba

 高藤同様、リオでは辛酸を舐めさせられた(銅メダル)81kg級の永瀬も、山あり谷ありで迎えた東京オリンピックだった。

2017年の世界選手権で右ひざに大ケガを負い、長期間畳から離れている。今大会は5試合中4試合が延長戦という粘闘だったが、持ち前の気力と体力で勝ち抜いた。

「気分は最高。今までやってきたことが報われた瞬間だった(永瀬)

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永瀬貴規 Photo by Richard Heathcote/Getty Images

 100kg級ではウルフが優勝。世界選手権、体重無差別で争う全日本選手権とともにオリンピックでも優勝したことで、念願の「柔道三冠」を達成した。この階級での優勝はシドニー五輪で井上康生が優勝して以来、21年ぶりの快挙だった。

「鈴木桂治先生以来三冠をとった柔道家はいないということで、新たに歴史に菜を刻むことができたと思います」(ウルフ)

 躍進の原因は、井上康生監督の卓越した采配に尽きる。

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ウルフアロン Photo by Chris Graythen/Getty Images

自分が頂点に立つという強い思いを込めた「熱意」、逆風が吹いたときに立ち向かうための「創意」、周囲のサポートや応援に感謝する「誠意」という3つの言葉を指導の軸にして強化を続けた。

 指導も上から目線の指示を送るのではなく、同じ高さに目線を置いた対話を重視。たとえ代表が試合で負けたとしてもその選手や周囲を叱責するようなことはせず、自ら責任をとる姿勢を見せた。

自らの現役時代の経験談を語ることもあった。遅刻を繰り返す選手が現れると、井上監督は自らの頭を丸刈りにして責任をとったことは、ブレない姿勢を如実に物語っている。

 大会が近づくにつれ、代表から「井上監督のために金メダルを獲りたい」と言う声が相次いで出たのは、チームがひとつになっていたからにほかならない。

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井上康生男子監督 Photo:Itaru Chiba

 個人戦では活躍した日本の男子だが、オリンピックでは初開催の男女混合団体戦では初戦でドイツに苦戦し、決勝でフランスに敗れた。

とりわけドイツとの一回戦で大野と阿部詩が敗れたことは衝撃だった。体重差や個人戦からの集中力の持続がネックだったか。この雪辱は2004年のパリ・オリンピックで晴らすしかあるまい。

すでにパリに向けた闘いは始まっている。


(スポーツライター 布施鋼治)