【ヴィクトリアM】追い込み一閃!アスコリピチェーノが優勝 新たな歴史のページを紡ぐ、新マイル女王の激走

(c)SANKEI
「早いもので、今年で20回目を迎えたヴィクトリアマイル」――
レースの実況を務めるアナウンサーがこう言った時、筆者は「もうそんなに経ったのか......」と思わずつぶやいた。
古馬になった牝馬たちの春の目標となるレースとして2006年に創設されたヴィクトリアマイルはこの20年でいろいろな顔を見せてきた。
クラシックレースを制して以降、なかなか勝ち星に恵まれなかったかつての女王が輝くこともあれば、クラシックであと一歩届かなかった馬たちが悲願のGⅠ制覇を果たしたことも。
絶対的な女王だけが美しく輝きを放つこともあれば、誰もが驚くような伏兵の激走で大波乱の決着となることも。
古馬GⅠの中で最も歴史の浅いレースではあるが、たった20年の間にこれだけ色々な顔をヴィクトリアマイルは我々に見せてくれた。
......そう考えたら、今年のヴィクトリアマイルは今までにないようなレースだったと思う。
3年ぶりにフルゲートのメンバーが揃ったが、GⅠ馬はわずか2頭だけ。
かつてのウオッカやアーモンドアイのような絶対的な女王は不在で、ここまでわずか1勝しか挙げていないボンドガールが2番人気に推されるなど、やや小粒なメンバー構成にすら感じさせる。それだけに戦前は大波乱の決着を予想されることもしばしばだった。
そんな中で1番人気に支持された、アスコリピチェーノは何を思っていたのだろうか。
2歳時に阪神JFを制して以来、GⅠは3戦して2着2回とあと一歩勝ち切れず。新たな活路を求めた昨秋のゴールデンイーグルではまさかの大敗を喫したが、京成杯AHに今年の年明け緒戦の1351ターフスプリントでは牡馬たちを相手に完勝するなど、その実力は衰えるどころかむしろ成長著しい。
パドックでの堂々とした闊歩を見ても、ほれぼれするくらいの美しさを見せていた。
そんな彼女がエントリーしていながら、混戦模様とされた今年のヴィクトリアマイル。
数々の波乱を生みだしてきたレースだからこそ、ファンは彼女を信じきれなかったのかもしれない。
最終的な単勝オッズは2.5倍にまで下がったが、パドックを周回していたこのころまでは3倍台に迫る場面もあり、ファン心理がグラグラと揺れる様子が見られた。
良馬場にこそ回復はしたが、この日の東京競馬場のどこかどんよりとした曇り空。それでいてどこか蒸し暑いという状況でヴィクトリアマイルはスタートした。
逃げると思われた最内のクリスマスパレードが出負けしたが、大外枠からアリスヴェリテが団子状態の中から先頭を奪い、その2馬身後方にアドマイヤマツリ、ビヨンドザヴァレーらが付けて先団を形成。
桜花賞馬のステレンボッシュがちょうど中団に付けたが、2番人気のボンドガールは最後方と有力馬は軒並み後ろの方へとポジションを取っていた。
この時、アスコリピチェーノはと言うと後ろから2番目という位置取り。
これまでのレース振りから考えると今までで一番後ろというポジショニングはペースが上がらないと予想されたこのレースに置いて、無謀な位置取りにさえ感じられた。
逃げたアリスヴェリテが刻んだ前半3ハロンのペースは33秒9と平均的なもの。
それだけに先行策から中団にいる馬たちにはピッタリな流れとなったが、後方で脚を溜めている有力馬たちには厳しい流れになるかもしれない......そんなことを考えながら、馬群は最後の直線へと入っていった。
逃げたアリスヴェリテが先頭のまま、残り400mのハロン棒を過ぎていく。前を追いかけようと各馬が懸命に追い出しにかかるも、アリスヴェリテが作った絶妙なペースにハマったのか、なかなか捕まえることができない。
外からエンジンが勝ったのか、ダミアン・レーンの乗るアルジーヌが動き始め、その外には川田将雅とクイーンズウォークが迫ってきた。
残り200m。アリスヴェリテを捕まえたアルジーヌとクイーンズウォークが先頭に立とうとした際、内外からそれぞれ1頭ずつ飛んできた。
内はシランケド、外はアスコリピチェーノだ。
直線を向いた時はともに最後方に近い位置にいた2頭。その中でシランケドはミルコ・デムーロが懸命に馬群を捌き、潜るようにして進路を探し当てた。
馬群を縫うようにインコースをこじ開けて、アルジーヌとクイーンズウォークが競り合う先頭集団に食らいついていく。
外を回したアスコリピチェーノはどうだ。クリストフ・ルメールが「何度も替えた」と言うように手前を替えてトップスピードが出るように動かし始めた。エンジンの掛かりが遅い彼女の闘志に火を灯そうと、ルメールは懸命に右鞭を叩いた。
残り100m。先に抜け出したアルジーヌとクイーンズウォークに内から伸びたシランケドが並んだ。優勝はこの3頭で決まりなのか?と思わせた瞬間、外からアスコリピチェーノが飛んできた。
内にシランケド、真ん中にクイーンズウォークとアルジーヌ、そして大外からアスコリピチェーノががっぷり四つの横並びとなってゴール。力と力、意地と誇りがぶつかり合うという牝馬GⅠらしからぬ激しい争いとなった。

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掲示板にはゴール前のストップモーションが映し出されていた。アルジーヌが競り負ける形で後方に下がり、その前にシランケド。さらにその前にクイーンズウォークがいたが......クイーンズウォークよりも先にゴール板についていたのはアスコリピチェーノだった。
1~4着馬までの着差はクビ、アタマ、ハナとまさに接戦。大激戦を制したアスコリピチェーノがGⅠ2勝目をゲットし、春のマイル女王の座を不動のものにしてみせた。
「最後はすごく頑張ってくれた。いいレースだった」......このレース4勝目を挙げたルメールのインタビューは非常にシンプルなコメントだったが、最後方に近い位置から堂々のごぼう抜きを見せてマイル女王の座を再び掴んでみせたアスコリピチェーノを祝う最高の賛辞となった。
今年で20回目となったヴィクトリアマイル。絶対的な女王の独走でもなければ波乱の決着でもなかったが、あまりに美しすぎる4頭のゴール前の競演は新たな歴史の1ページとなったことだろう。
そんな歴史を紡いだマイル女王、アスコリピチェーノ。彼女の挑戦はまだまだ続くのだろうか。
■文/福嶌弘
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