勝村コラム
2018年12月27日(木) 風の又三郎
ご存知、宮沢賢治の名作のタイトルである。内容はwikiくんに任せる。
谷川の岸の小さな小学校に、ある風の強い日、不思議な少年が転校してくる。少年は地元の子供たちに風の神の子ではないかという疑念とともに受け入れられ、さまざまな刺激的行動の末に去っていく。その間の村の子供たちの心象風景を現実と幻想の交錯として描いた物語。
ありがと。
稲本選手のことを書こうと思ってるんだけど、なんかいろんなことがフラッシュバックして、まとまらない。なんて考えていたら、ふっと、風の又三郎を思い出した。これだなと思った。又三郎は、神の子エルニーニョなのか、悪魔なのか?
とにかく、すごい選手が出てきた。
大型でテクニックがあり、力強く、周りも使えて、得点能力も高い。日本にはあまりいないタイプの、洗練された選手だった。でも、コテコテの大阪人。そのギャップが、さらに奥行きを感じさせたのかもしれない。王子様の異名を持つ、フェルナンド・レドンドみたいな選手になる可能性を感じた。
成長著しい頃に、ベンゲル監督と出会った。アーセンも、レドンドみたいな匂いを感じたのだと思う。世界のトップチームの仲間入りを果たし、残念ながらレギュラーの座を掴むことはできなかったが、その後10年くらい、様々なチームを渡り歩く。大きな怪我がなければ、その後も海外に残っていたであろう。それもスポーツ選手の宿命である。
だが、その経験の重さ、深さは、日本に戻ったチームの成績を見れば明らかであろう。フロンターレが、今の王国を築いた要因に、稲本選手の経験が生きていることは明白である。札幌も同様だ。小野伸二という天才と、稲本選手の存在が、どれだけチームに影響を与えたことか。
今シーズンの札幌の快進撃は、選手、スタッフ、関係者の力はもちろんだが、誰にも持っていない、持つこともできない、稲本選手の経験が鍵になっていたに違いない。今シーズンで、稲本選手は札幌の契機を満了した。
これも、プロスポーツ選手の宿命である。稲本選手がいつまで現役でいられるのか、誰も、本人ですらわからないだろう。だが、どんな場所でも、この又三郎は風と共に現れて、たくさんの人たちに、素晴らしい経験を伝え、また去っていき、またどこかに現れる。
稲本選手も確かにエルニーニョであると同時に、又三郎のように、対戦相手にとっては、悪魔のような存在でもある。サポーターにとっては、本当にしあわせな時間を与え続けてくれている。稲本選手を観ているだけでしあわせなのだから。
今からこんなことを書くのは失礼だが、この先、指導者として現れた時のことを考えると、思わず笑みがこぼれる。誰にも経験していないことが、さらにたくさんの選手、スタッフ、関係者に、また違う形で伝えられて行くからだ。同じチームで、レジェンドになって行く選手は美しい。
しかし、稲本選手のように、風のようにチームを渡り歩き、どのチームにもしあわせを運ぶ。稲本選手は、同じチームで生涯を終えるレジェンドにならなくてよかったと思う。そう、稲本選手は生き様が、すでにレジェンドなのだから。
まだまだ、あの目の覚めるようなシュートを、ゴールネットを突き破るのではないかと思うようなシュートを、これからもたくさん打ち続けて欲しい。疾風のように相手からボールを奪う姿も、そこから攻撃の起点になり、ゴール前に襲いかかるライオンのような動きも、まだまだみせて欲しい。
まぁ、すぐ来季にはみることができるでしょう。若い頃とはまるで違う、経験値の高さから繰り出される、驚くほどの技の数々が。この風の精からは、ずっと目を話すことができない。
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