勝村コラム
2019年1月18日(金) 循環
今から23年くらい前に、私の師匠の演出家の蜷川幸雄さんと近松心中物語という芝居をやった。当時の故、故なんて書きたくないが、坂東八十助さんと一緒だった。
坂東八十助さんと樋口可南子さんのカップルと、寺島しのぶちゃんと私のカップルが心中する話。初演は平幹二朗さんと、太地喜和子さん。日本の演劇史に残る名作の再再再再演くらいかしら?
とにかく、今はもう出来ないくらい、素晴らしい作品だった。んで、私の兄貴的存在だった坂東八十助さん。本当に素晴らしい兄貴だった。初めて歌舞伎役者とがっぷり芝居した。というか、人生を、芝居を教えていただきました。
もちろん芝居だけではなく、役者の生き様も。大阪2ヶ月名古屋2ヶ月、東京2ヶ月、埼玉2週間。全部でたぶん、280回近い公演数。普通の舞台ではありえない回数。その時、八十助兄さんとは、付き合ってるんじゃないかくらいの勢いで毎日ずっと一緒にいた。
朝ごはんを一緒に食べて、一緒に劇場に入り、11時くらいから昼公演の芝居やって、一緒に夕方くらいにご飯を食べて、夜公演やって、終わってから夜ご飯を食べて、朝5時くらいまで飲む(笑)。
ほとんどそんな生活だった。信じられないでしょ?
八十助兄さんは、化け物だった。知力、体力、柔軟な感性、踊りの美しさ、所作の美しさ、他人に対するやさしさ、自分に対する厳しさ、もちろん芝居のすごさも。何を取っても、こんなに素晴らしい兄貴はなかなかいない。
八十助兄さんと幼馴染のこれまた夭折した中村勘三郎さんは、とにかく破天荒できめ細やかで、すべての基本が出来ていて、どこまでも新鮮で、しかも何をするか予測もできない。
すべての役者の手本になるべき人たちだった。って、サッカー番組のコラムとは思えないね(笑)。
大丈夫だから。たぶん。その八十助兄さんとの生活を書いてみる。二回公演終えて、兄さんが「勝、夜ご飯つきあってくれ」で飯に行く。そういう時は八十助兄さんのご贔屓の、その地方の会社の社長さんとか、料亭の方とか、重鎮だらけ。一緒にその地方の、すごい美味しいご飯食べて、飲んで、芸者さんが横にいて、芸者さんって言っても、上品な、かなりのご高齢の方々で、おしゃべりをしながら、お酒をついでくださったりするだけなのよ。
んで、別れ側に、その重鎮の方が楽屋見舞いを下さって、別れる。
その後で八十助兄さんと、二人で夜の街に繰り出し、着物の美しい女性がやっている小粋なカウンターのお店で飲む。その女性は八十助兄さんの踊りのお弟子さんでもあり、芝居のチケットを買って下さっている。そこを小一時間で出て、同じようなお店を何件か回る。気持ちよくて、楽しくて、気がついたら明るくなってて、5時になってる(笑)。
二人でホテルに戻り、9時過ぎにふらふら起きて、風呂入って酒抜いて、一緒に朝ごはんを食べて、劇場に入る。そして次の日も、また人が変わり、お店も変わるが、同じことの繰り返し。毎日楽しく、芝居も評判が良く、みんな気持ちよくて、ただ、休演日には、八十助兄さんと私は、死んだように寝て動かない。残念ながら、そこは一緒に寝てはいない(笑)。
しかし歌舞伎役者は、休演日がない。だから、この芝居はすごく楽だと八十助兄さんは言っていた(笑)。
化け物である。
賢明な読者の皆様ならお気づきかと思いますが、八十助兄さんのやっていることは、クラブチームとまったく同じことなのだ。美しい循環。基本をしっかり身につけ、練習を続け、試合に出続け、終わったら、お客さん、つまりサポーター、スポンサーに挨拶してまわり、お金を落とし、チケットを買っていただくために何件も営業してまわり、結果、客席が満員になり、それぞれが潤う。
完璧なお金の循環。
完璧な人間関係の循環。
伝統芸能の世界の、素晴らしさを、違った意味で全身で教えていただいた。つまり、今回もご出演いただいた、明治安田生命の皆様も、まったく同じ。保険の契約を結ぶのが本来の仕事である。しかし、サッカーを応援してくださっている。根岸社長には何度も出演していただき、どれだけ楽しみながら、Jリーグをサポートしてくださっているのかは、皆さまご存知でしょう。
根岸社長の言葉は、いつもとてもわかりやすく、楽しく、そしてしっかりと相手に伝える技術を持っている。ついつい、その存在を身近に感じてしまう。根岸社長の人間力というのも、毎回感心してしまう。明治安田生命の明るく楽しい努力は、本当に頭が下がります。お金の動かし方を、人の動かし方を熟知した、しかも、Jリーグを応援してくださるという、サッカー好きにはたまらない会社である。
八十助兄さんが、個人でやっていた豪快な循環を、豪快で緻密な明治安田生命という会社も同じことをしている。それは、関わった人間が、すべてしあわせになれるという、理想の循環なのだ。どれが出すぎても、足りなくてもいけない。
すべてはバランスである。
八十助兄さんは、誰からも愛されていた。それは、八十助兄さんが、芝居を、歌舞伎を、地域を、人間を愛していたからだ。明治安田生命も、地域を、サッカーを、保険を、笑、そして、人間を愛している。結局、とどのつまりは、愛だったのだ。とどのつまりとは、魚のボラのことである。
「ハク」「オボコ」「スバシリ」「イナ」「ボラ」と名前を変え、最終的に「トド」になる。
出世魚。
八十助兄さんも、名前を変えて、三津五郎になった。明治安田生命は日本初の生命保険会社である。三菱グループの明治生命と、芙蓉グループの安田生命が合併して名前が変わった。無理矢理感は否めないが、笑、人間を愛した結果、出世して名前が変わる。こんなことを新年早々に考えていると、ついつい笑いが出てくる。こんな年の始まりも悪くないでしょ。
今年は、愛の循環を意識して、Jリーグの試合観戦も悪くないですよ。歌舞伎も、おりたちがやっていふ舞台も、サッカーの試合も、お客様がいなければ成立しない。すべて、たくさんの愛と努力で成り立っている。それも、お客様を楽しませるという、そのことだけを考えて考えて考えているからだ。
今年も、劇場へ、スタジアムへ、足を運んでいただきたい。生の人間を感じていただきたい。それが、根岸社長たち、サッカー関係者たち、私たち役者の存在意義なのだから。今年もたくさん循環させて行きましょう。そんな訳で、今年もよろしくお願いしますです。
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