勝村コラム

2018年10月 7日(日) 魔法の杖

高校時代に音楽か書道を選択することになった。なぜか書道を選択した。なぜだかわからない。少しは字がうまくなるかもしれないと思ったのか、楽なんだろうなと思ったのか、まぁそんないい加減な気持ちだったのだろう。

授業は字体の勉強とか、あとはいわゆる実技だった。なんど筆を使っても、字は上手くならない。書道なんて、ある程度はすぐに上手くなると思っていた。成長の兆しはなかった。

子供の頃習字を習ってる奴らは、字が上手くなっても、みんな同じようにしか見えなかった。書道全然面白くなかった。まぁ、仲のいいダメな友達も数人いて、ダラダラしていればよかったからそれでよかった。

書道の先生は、魅力的な男の人だった。結果的に、同級生のサッカー部のキャプテンはその先生に魅了され、実力もあり、書道の会社を立ち上げ、立派な社長になった。

魅力的な先生は、僕らの同級生でかなり人気のあった女の子と、今でいうゲス不倫の末に家族と別れ、結婚した。僕はその先生を好きになれなかった。書道には、歪な思い出しかない。役者になり、亡くなられた梅津栄さんという大先輩と共演させていただいた時に、梅津さんが書の達人であることを知った。

暖簾に字を書いてくれることになり、唐沢寿明、大竹しのぶちゃま、息子がエスパルスで頑張っているろっぺいちゃん(六平 直政)、おり(自分)の4人に書いてくれた。

唐沢が確か、「愛燦燦」
しのぶちゃまが確か、「百花繚乱」
ろっぺいちゃんが、「曼荼羅」
おりは迷った末に、「人にやさしく」

気合いを入れた梅津さんは、少し大げさなパフォーマンスでそれぞれの字を書く。共演者が笑いながら、感心しながら、梅津さんのパフォーマンスを見守る。素晴らしい暖簾が出来上がっていった。おりの暖簾には、何故か梅津さんが、「人」という字を二つ縦に書いてあった。

あ、あのう~、これなんて読むんですか?

と聞いたら「みんなにやさしくにしておいたよ」とおっしゃった。あ、ありがとうございます。

どう見ても

「炎にやきにく」としか読めなかった。他にも、梅津さんに色々書いていただき、今だに額装して部屋に飾ってある。

「へたでいい へたがいい」

役者が泣きそうな言葉と絵を描いた書をくださった。宝物である。梅津さんの書いた字を見ていると、気持ちが高ぶった。高校の書道の時間に感じた、字が上手くなると、みんな同じようにしかならないと思っていたことをその時に思い出した。

完全に間違えていた。芝居をするようになり、役者の端くれになり、目線が変わり、梅津さんの自由な書を目の当たりにして、書に対する考え方がまるで変わった。梅津さんの芝居の自由さは、書の自由さと同じだった。

梅津さんにしかできない芝居。梅津さんにしか書けない書。その人の生き様が、そこにあるだけだった。

梅津さんのことばかりになってしまっているが、街でよく見かける、「海人」とか書いてある沖縄のTシャツは、すべて梅津さんの書である。それだけでも、梅津さんのすごさを、書の素晴らしさを理解してもらえると思う。

今回のブレインは武田双雲さん。

書の巨人。武田さんの筆は、まるで魔法の杖のようである。リベリーノの左足のようである。変幻自在。近くで観ることができてしあわせだった。武田さんの書のビルドアップの方法は、すべてに通じていた。非常にわかりやすく、的確な言葉で説明までしてくれる。今までたくさんのブレインに来ていただいたが、極めていく過程は、すべて通じるものがあるのだと実感した。

武田さんは、これからどこに進んで行くのだろう?

武田双雲は、宇宙人だと言うことに気がついたのだと思う。自分が宇宙人だと気がつく人は少ない。昔、コラムでビッグバンのことを書いた気がする。爆発を繰り返し、グルイーノという、何か糊のような役割のものが、粒子をつないでいる。そのグルイーノの正体は不明である。

まぁ、雑に超ざっくり言うとそんなこと。武田双雲さんは、その不明のグルイーノに近いのだろうと思う。武田さんの筆が、たくさんの物をつないでくっつけてくれる?

みんなで番組のタイトル、「足×脳」を一筆づつ書く、ワークショップ的なことをしてみた。ご覧になった方はお分かりだと思うが、ワークショップ慣れしているおりが、乱暴な線で始めると、不思議なリレーで、力強い文字が出来上がった。書いた書をよく見ると、武田さんがおりたちの書いた乱暴な線や点を、見事に糊のようにつないでいる。

しかも、武田さんは偶然にも二つも×を書いていた。

アナーキーなおりたちに、「×罰」をくだしたような、もっともっと「×かける」よと応援してくれているような、二つの「×」ね。宇宙目線を感じるでしょ。これは、強い信念と遊び心が同居する時によく起きる、お導きなのだ。

武田双雲さんは、シャーマン的な能力が開花しているのかもしれない。なにかとつながり、なにかを結びつける。それが武田双雲さんの筆なのだろう。武田双雲という魔法使いは、これから何をつなぎ何を結びつけ、何をしでかすのか、目が離せない。

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