勝村コラム

2019年3月31日(日) 男は黙って

私が子どもの頃、日本を代表する俳優の三船敏郎さんが、「男は黙ってサッポロビール」という本人のナレーションで、渋くビールをあおるCMが一世を風靡した。

かっこよかった。

男は黙っているのが当たり前みたいだった。大相撲でも、力士は勝利のインタビューは「ごっつぁんです」しか言わなかった。それで十分だった。すべては、受け手が理解していく。

所謂、忖度。

忖度という言葉は、ここ数年、紙面もネットも賑わせ続けている。日本人の美徳は、忖度だったのだ。昔のお父さんも、話をしなかった。

男は、喋るな!
男は、泣くな!
男は、笑うな!

息子は必ず言われた。どうすりゃいいんだ!とにかく、無駄口をきかないことが、よしとされていた。女性もいろいろ大変だったが、男もなんか大変なことを強いられていた。

そして、近年。男はしゃべってしゃべってしゃべり倒している。テンポよく気の利いたことを。私の中では、深夜ラジオのパーソナリティーの存在くらいからではないかと思うんだけど。大橋巨泉さんとか、永六輔さんとかももちろんだけど、私の思春期に時代を変えた人たちの、知的でユーモアのある、おしゃべり。

とにかくしゃべりのすごい人たちが毎晩いろんな話題でしゃべる。しゃべり倒す。圧倒された。松山千春さん、中島みゆきさん、タモリさん、たけしさん、なぎら健壱さん、さだまさしさん、鶴光さん、つボイノリオさん、他にもたくさんの、しゃべりの達人たちが、毎夜毎夜、私たちをしあわせな寝不足にしてくれた。

しゃべれる男も女も、実はたくさんいたのだ。それでも当時は、今ひとつ、しゃべる男は軽く思われていた節がある。それを壊したのは、やはり、漫才ブームが起こり、たくさんのしゃべりのプロが世の中を席巻して、タモリさん、たけしさん、さんまさん。

「お笑い ビッグ3」と呼ばれ、今までのお笑いの流れを変えた。

その頃から、男の流れも変わったのではないかと、勝手に思っている。それ以降は、能力の高い人はほとんどお笑いの世界に入っていった。そして、西の巨人「よしもと」の時代に入る。お笑いができて、芝居ができて、司会ができて、音楽ができて、運動もできる。運動できなくても、運動ができないということを笑いに結びつける。最高のユーティリティプレーヤー。

その中でも、司会のできる人が、天下を取るか取らないかの分け目になっている。つまり、しゃべりができるかできないか。そう、しゃべりがすごい人が、時代を動かしているのだ。

海外では、昔からそれは普通のことだったが、日本では、強く忖度が機能していたので、言葉ではない、暗黙のツールがより機能していた。

今回のブレインは、プレゼンの魔術師、澤円さん。プレゼンでは、どうすればうまくしゃべればいいのか?

先日、ジャパネットたかたの、髙田明社長とお話をさせていただいた時に、井上ひさしさんの話題になった。私は、井上ひさしさんと交流があったので、話が盛り上がった。髙田社長が「井上さんはこんなことを書いていました」とおっしゃった。

「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」

この言葉に影響を受けたと。まさに、髙田社長が実践してこられたことだ。一代で、ジャパネットたかたをあそこまで大きくされたのは、商品の素晴らしさはもちろん、髙田社長のプレゼン力である。

台本はないとおっしゃっていた。髙田社長は、おしゃべりのプレゼンの天才だったのだ。澤さんは、冒頭に私のことをプレゼンしてくださった。それほど、私のことを知らないはずなのに、見事に私を語ってくれた。

wikiなどで調べたのだろう。

私の忘れていることも話してくれた。ドキっとした。やはり大切なのは、事前に深く調べ理解すること。そこに、わかりやすい言葉を使い、緩急をつけ、その場の雰囲気を掴み、コントロールする。プレゼンのビルドアップの方法は、まさにサッカーと同じである。不思議なことだが、全ての有機的な作業は、同じ場所にたどり着く。

話すことが苦手な人もたくさんいる。では、話すことが苦手な人はダメなのか?

それは違う。真摯な気持ちは、かならず相手に伝わる。何の努力もせずに、何かを伝えることはできない。井上ひさしさんは、子供のころ吃音だったそうだ。井上ひさしさんの戯曲は、とても長い。井上ひさしさんの戯曲は、とてもおしゃべりだ。

言葉一つ一つに、深さと浅さ、重さと軽さ、緩急、ユーモア、怒りと悲しみ、そして井上さんのやさしく、強い想い。全てが詰まっている。個人を出すことは難しい。三船敏郎さんがおしゃべりだったら、キャラに合わなかったろう。

無言の中に、饒舌な想いが込められている。個人の表現はさまざまだ。昔のお父さんだって、たくさんしゃべりたかったに違いない。澤さんみたいな人がいたら、時代は、日本人はかなり変わっていたことでしょう。今はいろいろなツールがある。

言葉以外でも、プレゼンはできる。大切なのは、コミュニケーションである。舞台で大切なことは、相手の言葉をよく聞くこと。自分の台詞はその後である。

装置、道具、衣装、照明、音響、など様々なものの「声」を聞くこと。自分の台詞や動きはその後である。それぞれが、ちゃんとプレゼンしてくれている。そのプレゼンを受け取る。

そして、それぞれに、相手のことを考えて、自分のプレゼンを届ける。それが出来る役者は、名優と呼ばれる。私もそんな域に行ってみたいもんのである。澤さんが役者になったら、名優になったに違いない。
ページトップに戻る