勝村コラム

2018年12月24日(月) チルドレン

人間にとっての最大の敵はストレスだ。だが、生命を受けた瞬間からストレスが始まり、死ぬまでストレスがなくなることはない。サッカーでもなんでも、スポーツでのストレスは、敗北である。どんなにいい試合をしても、負ければ終わりであり、どれほどダメな試合をしても、勝てばストレスは軽減される。日本人がサッカーにしっかりと興味を持ち始めたのは、25年前のJリーグの開幕である。

ほとんどの日本人が見向きもしなかったサッカーが、いきなり脚光を浴びた。その5年後に、日本人とは無縁だった、ワールドカップに出場を決めた。全世界とつながる大会、ワールドカップを認識したのもこの時でしょう。

人の欲というものには限りがない。特にガラパゴスの先進国の日本では、歴史にリスペクトが少ない。いい意味でも悪い意味でも。サッカー弱小国だった日本が、その後、5大会連続でワールドカップに出場している。日本人は、それが当たり前だと思っている。

この恐ろしい勘違いは、実は素晴らしい。日本人の邪気のない邪気が、日本のサッカーを強くしているのだ。日本がワールドカップに連続で出場できているのは、選手、スタッフ、関係者のおかげである。もちろん、サポーターの存在は欠かせない。代表が勝てばストレスは減り、代表が負ければストレスが増える。当然のことだ。

加茂監督からの、岡田監督。初出場の喜びとあと少しで強国に勝てたのにと思ったストレス。トルシエ監督。フランス人独特の感性に期待とストレスがたまり、はけ口を通訳にぶつけたりしていた。結果は素晴らしかったが、溜まるストレスを解消できなかった。

ジーコ監督。完璧なカリスマ性。クラブチームでも成績も申し分ない。だが、最終的な結果が出せず、ストレスが大きく溜まった。岡田監督の再登板。大会前のストレスが、大会で払拭されるという、経験したことのないしあわせに、国民が岡田監督に謝るという不思議な現象を生んだ。

ザッケローニ監督。監督としても実績はじゅうぶん。少し監督のピークを不安視されたが、チャーミングな人柄で愛され、チームも充実していた。しかし、大会で力を発揮することができなかった。期待が大きかった分、日本中でサッカーは勢いをなくした。

そして、ロシアに向けた監督選びで、綻びをみせる。アギーレ監督もハリルホジッチ監督も素晴らしい監督だったが、逮捕の噂や、選手のマネジメントなどの問題もあり、結果が出せず交代してしまった。ザッケローニ監督以降、日本人監督待望論が出ていた。

もちろん間違った考え方ではないが、私としては、判断が甘いと思っていた。もちろんそうなって欲しいし、そうなるべきだとは思っている。そして、ゴタゴタがあって西野監督。我が埼玉の英雄である。

しかし、さすがの埼玉の英雄も、準備期間がなさすぎるし、よくぞ、このミッションインポッシブル的な仕事を引き受けたなと、感動すらした。トムクルーズくらいしか、できない仕事である。蓋を開けたら、日本にとって、ブラジルで屈辱を味わったコロンビア。最強軍団。私は幸運にも、この試合を観に行くことができた。

モスクワの空港から、サランスクの空港までの間、黄色いユニフォームだらけ。飛行機の中でも、楽器を鳴らし、黄色いユニフォームの軍団が歌い続けていた。試合前からサポーターとして、勝てる気力を奪われていた。試合会場に着いても、完全アウェイ。泣きそうになった。これは無理だわ。と、心の中でつぶやいていた。こらがアウェイなんだと。

青いユニフォームは少なかった。黄色いユニフォームの応援は地鳴りのように響いていた。だが、結果は皆様ご承知の通り。試合終了のホイッスルが響き渡った瞬間、涙がこみ上げた。後ろから、「勝村さ〜ん!」と叫び声が聞こえた。振り向くと、目を真っ赤にした村井チェアマンだった。思わず駆け寄り、同じ代表の青いユニフォームを着て、泣きながら激しく抱擁した。

側から見たら、ただのおっさんずラブである。親や家族には見せられない光景である。だが、あの時の村井チェアマンとの抱擁の温もりは忘れられない。やめれ!

その後の代表の戦いは、世界中を巻き込んでの、忘れることができない最高のワールドカップになった。埼玉の英雄は、大阪でも英雄であり、日本の英雄になった。トムクルーズを超えたのだ!笑っ

西野監督には、感謝しても感謝しても、感謝し切れない。そして、新たに選ばれたのが、森保監督だった。番組でもしゃべったことだが、広島で最高の成績を残した名監督が、オリンピック世代の監督に就任することに、違和感があった。勘違いしてほしくないが、バルサ時代の連覇を達成したペップ監督が、オリンピックの世代の監督をやるのか?

否。

絶対やらないはずである。だから、代表監督ありきで引き受けたのだとばかり思っていた。そうでもなかったみたいだけど。笑。満を持しての、森保監督。広島で培った力を、代表でどのように進化させるのかが、最大の関心事である。監督として能力が高いのは、証明されている。

まずは、誰を選ぶのか。

すごい人選だった。ここまでの改造、改革をするとは思いもよらなかった。ロシアのメンバーの年齢を考えると、次のワールドカップに照準を合わせるためには、多くの選手を残すのは難しい。しかし、技術、経験を鑑みて、安全策を取って方向性を決めた方が、すべてが納得するはずである。

森保監督は恐ろしいほどの決断を下す。若手を主軸にしたのだ。そして、気持ちがいいほど、若手が躍動した。強敵に怯むどころか、攻めて攻めて攻めまくる。もちろんいろいろ問題はあるが、強敵相手でも、自分たちの哲学を貫き通し、弱気な試合運びをしない。そして、内容も素晴らしく、勇気があり、前に進み続ける。

そして大事なのは、結果が伴う。サポーターにはストレスは皆無である。最近、スカパー様で、歴代代表監督の試合を放送している。すごい内容で驚いた。ジーコジャパンの時も、デュエルなんてものではなかった。激しく戦い続けていた。あの時の、こんなに戦っていたチームを批判していたのかと、驚くほどだった。数試合テレビ観戦したが、どの歴代代表も素晴らしい試合をしていた。

だが、大きな試合で結果を残せなかった。森保監督と初めて話をした。番組の最後にも話したが、ようやく出てきた新しい監督だった。ラグビーの中竹監督の話ととても似ていた。日本の監督像は、基本的にカリスマである。優れた選手が監督になり、カリスマ性で引っ張る。

もちろん悪くはない。

だが、他の能力で監督像を作る人が、あまり語られることがなかった。それは、わかりにくいからだ。はっきりして欲しいのが、最近の日本人体質。だが、はっきりするのは、試合終了のホイッスルが鳴った時でいいのだ。

森保監督は、ぐいぐいチームを引っ張る人ではない。本人も言っていたが、牧羊犬のように、後ろからいつのまにか選手に方向づけをする。選手はノッキングを起こさずに、いつのまにか、監督の手中に収められていく。そして、結果が出る。

森保監督にどんな監督に影響を受けたか聞いた。その一人にバクスターさんの名前が出た。バクスターさんは、広島で素晴らしいチームを作ったイギリス人監督である。もちろん大功労者の、今西和男さんも忘れてはいけない。あまり取りざたされなかったが、バクスターさんを私は素晴らしい監督だと思っていた。

安定感のあるキーパーの前川選手。4バック森山監督、片野坂監督も堅実で、中盤もしっかりゲームを組み立て、風間監督、森保監督のダブルボランチ。ハシェックが魔法を使い、俊足のノジュンユン選手が相手を切り裂き、アジアの大砲、高木監督が、豪快に決める。

とてもいいチームだった。

ちょっと不思議な書き方をしたことに気づいたでしょ?

そう。風間八宏、森保一、高木琢也、森山佳郎、片野坂知宏。皆、監督としても高い能力があり、結果も残している。誰も言ってくれないが、これは、バクスターチルドレンと呼んでも過言ではない気がする。もちろん、皆さんたくさんの経験から、素晴らしい監督になってはいるが、こう見ると、満更でもないでしょ?

広島は、日本で初めて国際試合が行われたと言われている。私が取材に行かせていただいた、瀬戸内海にある、似島。第1次世界大戦の時の、捕虜収容島である。ここにいたドイツ人の捕虜が作ったサッカーチームと、広島の学校が練習試合をしたのが初めの国際試合と言われている。

その後、ドイツ人は帰国し、ヴァンバイルというクラブチームを創設する。そこから出てきた選手が、ギド・ウルリッヒ・ブッフバルトである。これは、偶然とは思えない。長くなってしまったが、ストレスのない代表を作り上げた森保監督のルーツは、その辺りにある気がしてならない。

広島というサッカー強国から吹いてきた風が、日本を席巻しているのだ。そして静かに現れた代表監督は、しばらく日本人サポーターのストレスをなくしてくれるでしょう。今、日本のサポーターはしあわせである。

最後に、稲本選手はまた次回。

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