勝村コラム

2018年11月18日(日) 筋肉の逆襲

私は、演出家の蜷川幸雄さんの元で演劇を始めた。当初、スポーツなんかやってる奴は、優れた俳優にはなれないと言われていた。内向的な芝居が求められていて、明るく発散型の芝居は、認められていなかった。かっこ悪いと思われていた。だが、時代を変える才能が次々に現れて、風穴を開けた。

元々、身体の表現なのだから、身体を鍛えている方が、対応しやすいはずである。動くことが、軽く見られていた。観客は正直だった。身体の表現を軽やかに受け入れ、その身体能力の高さを評価してくれた。

ただ鍛えるのではなく、演劇的身体を鍛えることが重要で、演劇的身体を手に入れるためには、スポーツ、ダンス、パントマイムなどで基本的身体をすでに獲得している俳優の動きは美しいのだ。

私は会社勤めを辞めて、トレーニングセンターに通って、えせボディビルダーの仲間入りをした。あくまでも、えせである。その時に、筋肉を初めて意識した。マッスルという言葉も、なんだか胡散臭く、笑いの対象になっていた。マッスルとは、ラテン語で小さなネズミという意味だ。

筋肉の動く様が、身体の中でネズミが活動しているように見えるかららしい。基本的にすべての動物の運動は筋肉によってもたらされる。筋肉がなければ、動物は動くことができない。動物ではなくなるのだ。それほど筋肉は大事なものである。なのに、筋肉を鍛えるとバカにされた。

トレーニングセンターに通うようになり、この誤解を常になくすように心がけてきた。いよいよ筋肉の逆襲が始まるのだ!

ざまみろ!

心臓だって筋肉なんだぞ!拳くらいの筋肉が、全身に血を送り続けているんだぞ!

ざまみろ!

そんな訳で今回のブレインは、現役のボディビルダーで、フィジカルトレーナーの岡田隆さん。筋肉の奥深さを、今一度検証することにする。筋肉の運動は、伸ばして縮める。基本的にそれだけ。伸縮運動を繰り返せば筋肉は鍛えられる。さらに負荷を増やしていけば、負荷に対して筋肉は成長する。

つまり、バーベルやダンベルの重さを増やしてトレーニングをすれば、筋肉は成長する。あとは筋肉に必要な栄養を与えれば、さらに筋肉は成長する。これは、サッカーや他のスポーツにも同じことが当てはまる。

運動、休息、栄養。

簡単なことだが、簡単なことだからこそ難しい。闇雲にトレーニングしても仕方がない。トレーニングで一番大切なのは、頭脳。ブレインである。

マッスル&ブレイン

後は、筋肉の才能。昔、トレーナーに言われたことがある。「勝村、筋肉にも才能があるんだよ。ここんとこお前をずっと見て来たけど、お前は肩幅が広いし、筋肉もつきやすく大きくなりやすい。北村みたいになれるかもしれない。(マッスル北村ね。東大出身のスーパースターだった)勝村真剣にボディビルダーにならないか?」と誘われた。

2秒悩んで断った。

いかんいかん、私は身体を鍛えるのは好きだったし、筋肉が大きくなる喜びも感じ始めていた。しかし、私の目標はボディビルダーではなかった。いつか辞めなければならないとは思っていた。このまま喜びに任せて、身体を鍛え続けて行ったら、マッスル勝村になってしまう。だが、身体が大きくなる喜び、怖いくらいに力がついて、そのうち車とか持てるんじゃないか?とか思っていた。

断腸の思いで、トレーナーにお断りの返事をして、そのままトレーニングジムをフェードアウトした。もし、あの時にトレーナーが真剣にボディビルダーにならないか?などと誘わなければ、そのままトレーニングを続け、気がつけばボディビルダーになっていたかもしれない。(本当かよ。笑っ)

それくらい身体を鍛えるのが楽しかった。今回は、まさにマッスル&ブレイン。筋肉を正確に鍛えて大きくするのは、頭脳である。ボディビルダーの鍛え抜かれた芸術的筋肉は、頭脳と努力なくしては成り立たない。岡田さんは、筋肉の全てを知り尽くし、競技、個人に合わせて、正しい筋肉がつくように導く、筋肉の伝道師なのだ。

岡田さんをトレーナーにつけた、井上康生監督の先を見据えたセンスを讃えたい。選手としても素晴らしかったが、監督としても、人間としても本当に素晴らしいのでしょう。日本のお家芸の柔道は、さらなる進化を遂げて、素晴らしい結果を残していくでしょう。

どんなスポーツでも、一番最初に鍛えるのは筋肉。筋肉が動きを作り出すのだ。その筋肉を正確に鍛えて行くのが頭脳。切っても切り離すことは出来ない。昔は、鍛えている人を、脳みそまで筋肉で出来ているとバカにした人たちがいた。

だが、今冷静に考えると、それは最高の褒め言葉だったと解釈できる。それほど、筋肉は奥深い。鍛えずにいるのは、もったいない。50才半ばになり、筋力が衰えを見せ始めてきた。今後は衰えた筋肉をどう楽しめるのかが、とても楽しみである。
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