勝村コラム

2019年10月12日(土) 献身

おりがいた劇団、第三舞台で、「ビー・ヒア・ナウ」という戯曲があった。

そこで、チアリーディングを体験した。劇団では必ずダンスがあった。振り付けは当時一世風靡セピアの振り付けをしていた、川崎悦子先生。

毎回、ダンスの得意ではない面々を、なんとかダンスの達人に見えるように、知恵を振り絞って振り絞って、振り付けをしてくれた。

演劇界に、なくてはならない、素晴らしい先生である。当時チアリーディングをほとんど知らなかった。まぁ、チームを応援する女性のダンスくらいの知識しかなかったと思う。

それがあなた!

ビデオを観て、がく然とした。命懸けやん!そのパフォーマンスの完成度、アクロバティックな技術の高さ、技のキレ、身体のキレ、そして、キレッキレの笑顔。全てに圧倒された。

第三舞台は、劇団員10人。渋谷のシアターコクーンでの上演だったので、群舞するにはギリギリの人数である。男は女装。ふざけているわけではない。

チアリーディングは、基本女性で、ダンスももちろんあるが、柱になる部分を男性が担当していた。人数の都合もあり、ふざける都合もあり、男は女装だった。やっぱふざけてんじゃねぇか!笑っ

違います。真剣なアプローチです。と言うか、真剣にやらなければ、死んでしまう可能性もあるのだ。バク宙出来る奴はいるか?

演出家の質問に、筧利夫パイセンが手をあげる。筧パイセンは、一応ダンスが出来る、一応って。笑っ。数少ない劇団員の一人だった。しかも体操を取り入れたダンスを、すでに習っていたのだ。

今回のチアリーディングの振り付けでは、相当な達人の域にいた。後は、チアど素人。演出家は、おりを体育の得意な若者だと認識していた。ピルグリムという戯曲では、「直太郎空から降りてくる」みたいなト書きがあり、直太郎はおり。勝村ね。

舞台監督が、演出、これどうしたらいいんですか?と尋ねると、あぁ、勝は体育が得意だから、軍手でもして、上からロープで降りれば大丈夫だろ?みたいなことを言ったそうだ。

考えてみて。そんなのは、体育ではない。体育が得意な人は、軍手でロープを降りない。4間くらいは高さがあったから、7.2メートルである。演出助手が最初に試した。今では、相棒とか書いて大先生と呼ばれる、脚本家の戸田山雅司である。

ロープを下から登って、途中からゆっくり降りて、熱い、手が熱い、みたいなことを言いやがった。あ、大先生だった。古すぎて記憶が曖昧になっているが、その時の様子は、戯曲の後書きに書いといたから、興味のある人は確認してくださいな。

って、誰が興味あるか!

そして、とりあえず品川プリンスホテルの中にある、体操の練習が出来る場所に通うことになった。この時の先生は、ダンスと体操を組み合わせたパフォーマンスチームで活躍していた。しかも、ダンスでは、川崎悦子先生の弟子でもあった。

体操の練習は楽しかった。床に弾力があり、怪我を恐れずに練習出来た。ロンダードなんて言葉を初めて知って、ロンダードからのバク転も出来るようになった。体育が得意でよかった。バク転の練習を重ねるうちに、次はバク宙の練習に移った。

両方とも後ろに回転するんだけど、全然違う。しばらく練習するうちに、バク宙も出来るようになった。体育が得意でよかった。ここの床は柔らかく、弾力がある。技も、着地もやりやすい。

しかし舞台では、硬い木材の上でやらなければならない。しかもスカート。様々なチアリーディングの技を、みんなでなんとか体得した。

この時の苦しみは、今でも鮮明に思い出せる。それほど、大変なパフォーマンスだったのだ。

今回の番組のオープニングを観て、気持ちが高ぶったでしょう。

専門的な技術を持った人たちのパフォーマンス。そのパフォーマンスで応援してもらえるということで、どれほど力が湧くか。どれほど気持ちが高ぶるか。少し体験できたのではないでしょうか。

だが、パフォーマーたちは?

勝っている時のメンタル。負けている時のメンタル。どんな時でも、チアリーディングの皆様は、応援を、力を与え続けてくれる。特に、パフォーマンスをする側の立場で言わせていただくと、勝っている時はなんでも楽にできる。

会場がしあわせなオーラに包まれているからだ。だが、負けている時に、追い込まれている時に、笑顔になることは、簡単なことではない。ものすごい力が、勇気が、努力が必要なのだ。前回の磯さんの時に書いたが、佐世保で、髙田社長と話している時に、芝居の上手い役者は誰ですか?と聞かれた。

突然の質問に暫し悩んだ。

あんまり考えた事がなかったからだ。まず、芝居の上手さとはなんなのだ?と考えた。芝居の上手さとは、非常に具体的であり、非常に抽象的なのだ。

作品によって、監督によって、年齢によって、共演者によって、、

まったく違うからである。少し考えた。芝居の上手い役者は、西田敏行さんです。と答えた。なぜ、西田敏行さんと答えたのか。

おりの師匠だった蜷川幸雄さん。おりが出会った頃は、悲劇しかやらなかった。と言うか、できなかった。シェイクスピアの「真夏の夜の夢」という名作喜劇を悲劇的構造で演出し、好評を博した。それ以降、自信をつけた蜷川さんは、次々と喜劇に挑戦した。

悲劇を得意とする役者。喜劇を得意とする役者。

変な分け方だが、両方を同じように演じられる役者は少ない。まぁ、日本では、喜劇的な演技を軽んじる傾向があることも確かである。愚かな思考である。

亡くなってしまったが、森繁久彌さんは天才だった。

喜劇も悲劇も、前衛的な演技も、伝統的な演技も、すごい振り幅で、恐ろしく軽く、恐ろしく重く、恐ろしく浅く、恐ろしく狭く、恐ろしく広く、恐ろしく深く、縦横無尽にフットワーク軽く、どんな人物でも、絶対にこんな人だったんだろうなと、納得させてしまう、恐ろしく芝居の上手い役者だった。

と、おりが書くのも恐ろしくおこがましいが。

森繁久彌さんは、本当に芝居の上手かった。びっくりするくらい。共演させていただいた話は、またの機会があれば書かせていただく。おりは、三船敏郎さんが、映像では神様である。それも、黒澤明監督と組んだ三船敏郎さん。

悲劇の代名詞のような役者だった。仲代達矢さんも、悲劇的な演技の達人である。おりが勝手に思う、芝居のすごい役者。ほんじゃ、上手くないのか!と言われると、もちろん上手い。

でも、上手いというよりも、すごい。わかっていただけるかな?

仲代さんと共演させていただいたことも、また機会があれば書かせていただく。んで、髙田社長に宣言した、西田敏行さんです。西田の大兄の過去の作品を思い出して欲しい。

ほらね。

こんなに芝居の上手い人は、今は西田さんしかいないでしょ。森繁久彌さんと同じ匂い。すべて、おりが勝手に思っていることだから、ふん!って想う人はそれでいい。西田さんは、森繁久彌さん以来の芝居の上手い、なんでもできる主役の役者である。

話しが逸れて長くなったが、人間の感情。

喜怒哀楽。

人間の感情の中で、一番簡単なのは怒ること。泣くことは簡単ではないが、自己陶酔は楽である。と考えると、楽である。芝居を始めた頃、台詞を言いながら泣いている役者に、泣くのはてめぇじゃねぇ!観客だ!

と、蜷川さんはよく叫んでいた。そんな恐ろしい、演出家の前で、笑ったり笑わせたり出来ますか?

どれだけ、リラックスした感情と身体を作れて、研ぎ澄ました技術を発揮できるのか。北風と太陽じゃないけど、人の心を開くのは至難の業である。西田敏行さんの芝居は、誰の心も魔法のように開かせる。

西田さんと岸部一徳さんと福島に旅行に行ったことがある。福島に着いて、地元の人たちが西田さんを見かけると、みんな口々に、おかえりなさいと言うのだ。

西田さんは、あぁ、どうも、ただいま〜と笑顔で答える。こんな人初めて見た。人たらし。最高の。西田さん自身も西田さんにたらされてるみたいだ。

西田さんに出会った人たちは、みんな笑顔で、力が漲っていくのがわかる。

チアリーディングの皆さまは、一番難しい人間の感情が蠢いている時に、トレーニングで身につけた、素晴らしい技と、チームワークで戦っているのだ。

こんな献身的なパフォーマンスをおりは他に知らない。Jリーグで、チアチームがあるのは、33チーム。サポーターのみなさん以外にも、もっともっと関心を持って、愛していただきたい。

彼女たちの存在が、選手だけでなく、サポーターのみなさんにも力を与えてくれているのだ。

ぜひ、チアリーディングのコンテストを開いていただき、もっともっとチアリーディングの凄さを、その存在を知って、広めていただきたい。
選手も、サポーターのみなさんも、日頃のお礼に、チアリーディングのみなさんに、笑顔の天使たちに、なんらかのお返ししないといけない。最高の笑顔で。


追伸
今ネットニュース見たらこんなことが書いてあった。

バスケットボールのB.LEAGUEに所属する横浜ビー・コルセアーズのチアリーダーズである「B‐ROSE」。彼女たちをディレクターとして指導する植村綾子さんの言葉である

「たとえば家族を『行ってらっしゃい』と送り出したり、友達に『元気ないね。どうしたの?』と声をかけることも、チアだと思っています。踊らなくても女性でなくても、気持ちの持ち方ひとつで、誰もが誰かのチアリーダーになれるわけです」

奥深い。

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