勝村コラム

2019年5月13日(月) 総合芸術

演劇は総合芸術。

音楽、建築、絵画、舞踏などの芸術の混合によって創造される。ウィキ君ダンケ。美術、照明、音楽、衣装、小道具などは、舞台の大切で重要な要素である。最近はこの重要なものが、独立している印象を受ける。

亡くなった演劇界のレジェンド、つかこうへいさんは、灯りも音も役者が呼び込むんだと言っていた。有名な戯曲で映画でも名作になった、蒲田行進曲。大部屋の役者が、大階段から落ちるのが見どころの、素晴らしい作品である。

稽古中に、主役を演じる長谷川康夫さん。蒲田行進曲の主役のヤスは、長谷川康夫さんのヤスである。長谷川康夫さんの芝居が上手く行かなかったそうだ。

たまたま稽古場に遊びに来ていた、柄本明さんが、ヤスの役を突然やらされて、見事に演じたために、初演は主役のヤスは柄本明さんになった。

その時に稽古を観ていた演劇界の美術のレジェンド、石井強さんが、100万助かりましたね。とつかさんに耳打ちしたそうだ。役者の芝居がいいので、装置で作るはずの大階段を作る必要がなくなったから、装置代にかかる100万円が浮いたということである。

何が必要で、何が不必要か?微妙なバランスで成り立っている。すべて、つかさんの本に書いてあるのだが、うちにあったつかさんの本を誰かに貸したまま戻ってきていないので、細かいことが違っていたらご勘弁を。

本を返さない奴のせいだから。まぁ、極端な話だが、舞台の総合的なバランスの例である。

長谷川康夫さんは、今は作家になっている。つかさんの正伝も書いており、つかさんのことがよく分かる名著だ。おりもお世話になった素晴らしい演劇人である。

おりの師匠の蜷川幸雄さんの周りの演劇人たちも、素晴らしい人ばかりだった。おりは舞台で相当暴れて物を壊す。蜷川さんが笑って呆れるくらい暴れた。

そんな時に、一緒に戦った能力の高いスタッフは必ず、「しょうがねぇなぁ、かっちゃん。大丈夫ですよ。直しますから」と笑って言ってくれた。

おりは、安心して毎回自由に暴れることができた。ちなみに、ただ暴れて壊すことは許されることではない。ちゃんと理由があり、効果がある。スタッフが優秀だと、役者は余計なことに神経を使う必要がなく、集中して演じることができるのだ。

今回のブレインは、味の素スタジアムのヘッドグラウンドキーパーの池田省治さん。

芝生の管理責任者である。

番組が始まった頃にも、芝生作りのエキスパートに来ていただき、ゴルフ場で芝生を作っていたのに、サッカー場に芝生を作るために呼ばれ、初めてサッカー場に芝生を作る苦労話をたくさんしていただいた。おりの大好きな、この番組らしい回だった。

前回のレジェンドは、ゴルフ場で芝生の管理をしていたのに、サッカー場の芝生を作ることになって、ゴルフとサッカーでは、芝生の使い方が真逆で、とても戸惑ったというような話を聞いた。

今回の池田省二さんは、また真逆の話をしてくれた。池田さんは元々、NFLの伝説のグラウンドキーパー、ジョージ・トーマスさんの元で技術を学んだそうだ。

トーマスさんのこと調べたがわからなかった。がんばれ、ウィキ君。池田さんはスーパーボウルのグラウンドキーパーも務めている。ピンとこない人もいるかと思うが、スーパーボウルは、アメリカでもっとも人気のあるスポーツ、アメリカンフットボールの頂点を決める大会で、その日はスーパーサンデーと言われ、祝日でもある。

謝肉祭に次いで、二番目に食料が多く消費される日でもあるらしい。ありがとウィキ君。

とにかく、スケールが大きすぎて、日本では例えられないくらいすごいことなのだ。そのスーパーボウルで、池田さんはグラウンドクルーを務めているのだ。池田さんはもっと取り上げられていてもおかしくない。取り上げてるのかな?

まぁ、もっともっと日本でも有名になっていないとおかしい人なのだ。

池田さんは芝生を知り尽くしている。今まで日本人が間違えて覚えている芝生の情報に、提言をしてくれている。

その声が届けば、もっともっと日本のスポーツは芝生の上でスポーツが出来る。野球は昔芝生だったが、ドームスタジアムやら、管理やらのいろいろなことで、人工芝が当たり前になってしまった。

残念だが。スポーツだけではない。学校でも、公園でも、自由に芝生の上で遊べる。ハードルが高いと思っていた芝生の、ハードルをなくしてくれる人なのだ。

花見だって、遠足だって、じゃかじゃか芝生の上に入れる。芝生を裸足で踏める。足の裏は芝生を記憶することができる。子供の頃から芝生を裸足で踏んでいると、なにかが変わると思う。池田さんは、芝生をどんどん壊していいと言ってくれた。

直しますからと。蜷川さんの優秀なスタッフと同じことを言ってくれた。演者が成長するためには、自由を与えることである。

もちろん、自由は規制の中にしかない。日本では、規制の中に規制が多い。なので、演者は自分でリミッターをかけてしまう。本質がずれるのだ。選手は芝生のことを気にしていない。だが、芝生を理解していない選手は、大きなアドバンテージになる。

ホペイロの回の時にも書いたが、チームにかかわるすべての人間が、それぞれの持ち場で戦っている。芝生を理解することが、最適なスパイクを選択できる。そのスパイクをホペイロが管理して、芝生に合わせた最良のスパイクに仕上げる。

総合芸術。

美しい芝生に喜ぶ時代は終わりを告げたのだ。池田さんは、新たな芝生の時代の伝道師だ。これから日本はどんどん芝生が植えられていく。学校の運動会も、芝生の上を走る。ビルの屋上にも芝生は植えられていくだろう。

先日、新しい紙幣に変わるというニュースがあった。20年周期くらいに、紙幣は変更されるらしい。40年後くらいに、池田さんが紙幣に印刷されることを想像して、少し笑った。そんな時代がくればいい。
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